瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

東京RADIO CLUB「東京ミステリー」(6)

 昨日、もしくは一昨日の続きで、TBSラジオ東京RADIO CLUB 編『東京ミステリーとっておきの怖い話』二見WAi WAi文庫)について。
・第三章 世にも不思議な恐怖の怪現象(1)
 「目次」の7頁12行め~8頁8行め、章題に続いてやはり10題。
 83頁(頁付なし)がこの章の扉。
【30】焼け焦げたフランス人形の呪い―――K・Tさん(十八歳) 120~122頁
 冒頭、120頁2~4行め、

 今年の一月一日のことです。午前一時ごろ、ボクは友達のMとTを誘って、近くの神社/に初詣でに出かけました。
 神社の境内の裏では、厄物を焼いていました。


 本書の資料的価値だが、私は軽視出来ないと思っている。かなり文飾が施されているようだし、場所も、6月7日付(4)に取り上げた【3】のように容易に特定出来るものもあるが、殆どはどこだか分からない。しかし、投書の募集時期が平成4年(1992)夏にほぼ限定出来るであろう点が貴重なのである。すなわち、本書所収の怪異談は、その信憑性に問題はあるにせよ、限定された時期の纏まった報告として、平成初年の1つの指標となり得るのではあるまいか。かつ、募集時期が年度を跨いでいないので、時期の絞り込みに問題が少ないのが、私のような考証道楽の人間には有難いのである。募集時期の限定されない『現代民話考』の場合、初出「民話の手帖」や報告者・話者の年齢なども勘案しないと時期が割り出せない。これが困る*1
 この話の場合、時期は平成4年(1992)1月1日から5日と限定出来るようである。但し場所を記述から割り出すことは不可能である。
 さて、3人が「興味津々で炎のなかを覗きこん」だところ「大量に積まれた達磨や御札」の「なかに、少し焦げたフランス人形」を見付ける。手の届くところにあったので「Tは何気なく、その人形を取り上げ」るが「顔はまるで人のようで、ケロイドができて」おり「焼け焦げ」て「縮れ」た「人形の髪」からは「本物の髪の毛を燃やしたような臭い」までする。そのため、120頁12~13行め、

「こいつ、気味が悪いな。さっさと燃えればよかったんだ」
 MとTはそういうと、その人形を神社の大きな池に投げ捨ててしまいました。

と、これが怪異の原因である【120】。
 「その夜の一時ごろ」に「ベッドの上でうとうとしている」体験者は、まづ「髪の焼けた臭い」に「起き上がろうと」するが「金縛りにあ」い、そこに「窓が開く音」そして「カーテンがスーッと開い」て「あの人形らしい影が近づいて」くる。「苦しげな声」で「顔が熱いよぉ……。水がこわいよぉ……。わたし泳げないのに……」と「ベッドの横に立」って言う。121頁15行め~122頁3行め、

 そして、ボクの顔をヌーッと覗きこんできたのです。
 人形だとだかり思っていたそれは、五つくらいの人間の子供でした。女の子の顔は半分【121】焼けただれ、ひどいケロイドがついています。そして、水死体のように、水膨れになった/皮膚がめくれています。その顔がボクの目の前にあって、冷たい恐ろしい目でボクを睨ん/でいるのです。


 「ショックのあまり失神」した体験者が翌朝早く、Tの家に行ってみると「数台のパトカーが来てい」る。「近所の人に尋ね」ると、「Tが夜中の一時ごろガソリンをかぶって玄関の前で焼身自殺をしたという」。そこで「Mに電話を」すると「Mは無事だった」が体験者と同じ怪異に「あったと震えて」おり、「その晩」に行方不明になる。そして「三日後」、「あの神社の大きな池」で「水死体」となって発見される。
 ちょっと、山岸凉子の「わたしの人形は良い人形」みたいな雰囲気がある。
 それはともかく、余計なことをしたTが真っ先に最も酷い死に方をし、それに同調したMもやや遅れて死に、そして同行していた体験者だけが(彼らの死の原因の語り手としての役割を担うことを期待してか)人形の怨念を見せられただけで助かることになっている。このように処罰に甚だ秩序があるのは2011年11月29日付「七人坊主(26)」等に検討した、八丈島の「七人坊主」にも見られるところであった。(以下続稿)

*1:かつ、本文の方も文飾とは逆の問題がある。すなわち、2013年5月1日付「御所トンネル(4)」に検討したように、要約に際しポイントとなるべき要素を省き、誤った解釈を加えるようなケースが間々あるのである。

事故車の怪(18)

・TBSラジオ東京RADIO CLUB 編『東京ミステリーとっておきの怖い話』(1)
 昨日の続きだが、今回は話の内容を記事の題にした。第二章「血も凍らせる怨霊たちの呻き」の7話め。
【17】いわくつきの不気味な中古車―――H・Sさん(十九歳) 72頁2行め~74頁5行め
 冒頭、72頁3~5行め、話の出所と発端。

 この話は従兄弟から聞きました。
 Aさんは私の従兄弟とは会社の同僚でしたが、入社した年に念願の車を買ったそうです。/といっても、まだ、働きはじめたばかりなので、中古車です。


 Aさんは毎日「外まわりの仕事」に、社用車の営業車ではなく「自分の車でまわ」る「ことにし」ていた。「そして、年の暮れ」に「お得意さんへの年末の挨拶まわりに出かけ」、「一日じゅう走りまわったので、さすがに疲れて、最後のお得意さんのところの駐車場」で休む。「すると、だんだん車内の温度が上が」る【72】。「エアコンの調整をしようとあちこちいじって」も温度は「ますます高くなる一方」。たまらず「窓を開けようと」するが「ピクリとも動」かない。「外に出ようと」するが「今度はドアもしっかりロックされたままで、少しも動かない」。「意識」が「しだいに薄れてい」く中で、Aさんは「暑いよ、暑いよ」と言う声を聞き、また「バックミラー」に「誰もいるはずのない後部の座席に、小さな女の子が座ったまま、すごい形相で苦しみ悶えてい」るのを見たところで、Aさんは「意識を失ってしま」う。
 そこへお得意さんの「ちょうど車を出しにきた会社の人がい」たお蔭で、Aさんは「命を【73】落と」さずに済む。
 この話も結末に理由が明らかにされる。74頁2~5行め、

 翌日、Aさんは車を買った中古車店に行き、話をしました。
 すると、そこの主人は青ざめ、申し訳なさそうな顔をして、こういったといいます。
「じつは、あの車では女の子が死んでるんです。真夏に車のなかに子供を残したまま。母/親がパチンコをしているあいだに、子供は脱水状態になってしまいましてね……」


 2018年9月30日付(15)等に見たように、昭和62年(1987)には「呪いのソアラ」の話が流行っていたが、この話は繰り返し事故を起こして転売されるうちに驚くほど安値になっていた、と云う展開にはなっていない。夏に車内で死亡事故を起こした乗用車が、年末にまた同様の事故を起こしそうになった、しかも、冬の、夕方に、暑さで「脱水症状を起こして」意識不明になると云う異常さがこの話のポイントなのだろう。
 この手の話を読む限り、簡単に廃車にはされないようだから、この後、転売されて、どんどん安くなって、‥‥と云う展開に今はなっていようか。(以下続稿)