瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

2014-06-01から1ヶ月間の記事一覧

中島京子『小さいおうち』(27)

・最終章「小さいおうち」の構成(4) 本書が、額縁小説の冒頭になされることの多い“公開”の経緯やら動機やらを説明せずに済ませているのは、取りも直さずノートの所有者たる健史がノートを“公開”したのではないからで、最終章で健史が見せる、6月24日付(2…

中島京子『小さいおうち』(26)

・最終章「小さいおうち」の構成(3) 最終章は結局、健史が「僕」の一人称で語るのだけれども、時間の順序からすると最終章5と6の間に収まるべき最終章1を切り取って最初に提示し、これまでのタキの「私」語りではなく語り手の姿を消して見せることで、…

中島京子『小さいおうち』(25)

・最終章「小さいおうち」の構成(2) 第七章まではタキのノートをそのまま示していることになっている(それとはっきり断っている訳ではない)が、最終章はタキの没後のことになっていて、これまでの章と違って裏が白紙の扉(頁付なし)がある。単行本の扉…

中島京子『小さいおうち』(24)

・最終章「小さいおうち」の構成(1) 第七章まではタキのノートで、【A】回想と【B】執筆時を往来する。それが落ち着かないというレビューもあるようだが、【A】過去と【B】現在は、それぞれの時系列に沿って、特に【B】は執筆時の主として健史とのや…

中島京子『小さいおうち』(23)

昨日書いたコロンビア2位通過云々について、今日改めて人に聞いてみたら「ネタだろ」と一蹴された。 そうでなかった人もいただろうと思うのだけれども、むしろそうでなかった人でないと口にしなかったろうと思うのだけれども、事実は小説より奇なり。――「ネ…

中島京子『小さいおうち』(22)

健史という人物について、どうにも腑に落ちない思いを黙し難く、あれこれ書いてしまったが、少し後悔している。 小説の世界の主宰者たる作者がこう書いている以上、読者として健史の造型にどんなに不自然さを感じようが、健史はこういう人物にしかならない。…

中島京子『小さいおうち』(21)

・後悔する健史(4) 昨日は“後悔する”ところに触れなかったが、話を“後悔する”に戻す。 「大伯母」タキに対して健史は“後悔”しているのだが、それも6月22日付(19)に引いたように、タキにノートに書き込まれてしまった数々の自身の偏向かつ頓珍漢な発言に…

中島京子『小さいおうち』(20)

・後悔する健史(3) 健史の反応については別に纏めて示すつもりだったが、ついでだからここに初めての「感想」を見て置こう。6月8日付(05)に示したような経緯で「盗み読み」するようになるのだが、いきなりこんなことを言い出す。第一章11、単行本36頁3…

中島京子『小さいおうち』(19)

・後悔する健史(2) 昨日は『永遠の0』を持ち出して見たけれども、通読して細かく比較しようなどとは考えていないので、映画やTVドラマが地上波で放映されたら見るかも知れないが、中途半端な比較はこの程度に止めて置く。 私の注意したいのは、健史が主…

中島京子『小さいおうち』(18)

・後悔する健史(1) 6月15日付(12)を「反省しない健史」とした。最終章を見ても、健史に反省している風はない。その代わり「後悔」している。 * * * * * * * * * * 先日、職場で年下の女性に『永遠の0』が面白かったと言われた。まだ読んでな…

中島京子『小さいおうち』(17)

昨日の続き。 ・布宮タキの親族(4) こんな調子だから、もちろん甥の妻とも上手く行くはずがないので、たまに一緒に食事をしているが、普段の交渉は遠慮のない「近頃の若い人」健史に任せて、直に接することを避けている風である。 甥の嫁が登場するのは、…

中島京子『小さいおうち』(16)

・女性編集者への対応(1) 前回見た、女性編集者に関する記述は、健史の登場する場面と合わせて、もう少し詳しく見て置いた方が良いであろう。 第一章2、単行本頁行め・文庫版9頁2〜4行め、 今日、出版社の編集者と名乗る若い女性が家へやってきて、こん…

中島京子『小さいおうち』(15)

・布宮タキの親族(3) 甥の一家だが、健史は次男だから、長男がいるはずで、全く出て来ないから家を出ているのであろう。それから、第二章11「昨年嫁にいった娘」がいる。長男と長女のどちかが年上かは不明。 それから6月16日付(13)で触れたタキの2人の…

中島京子『小さいおうち』(14)

・布宮タキの親族(2) 昨日の続きで「軍治おじさん」について。 最終章2、平成18年(2006)春に上京した健史が訪ねたとき、「大伯母の姉の息子」すなわち健史の「父の従兄」の「軍治おじさんはすでに七十を過ぎて、蔵前のマンションに奥さんと二人で住ん…

中島京子『小さいおうち』(13)

・布宮タキの親族(1) 近くに住んでいる甥一家のことは第一章1から見えている。甥は最終章2、単行本282頁16行め・文庫版301頁10行めにのみ「智*1」という名前であることが示されている。それはともかく第一章1に戻って、この甥はタキの「貯金」の「一部…

中島京子『小さいおうち』(12)

・反省しない健史 一部のレビューでも指摘されていることだが、健史にリアリティが感じられない。 タキのノートの執筆時期が、平成15年(2003)秋から平成16年(2004)春に掛けてであるとして、こんなに戦前暗黒史観に染まっているだろうか。昭和39年(1964…

中島京子『小さいおうち』(11)

一昨日からの続きで、第一章9について。 正人ぼっちゃんの話が一段落付いて、時子奥様に新しい家の、新しい女中部屋が気に入ったかと聞かれて、単行本31頁9行め・文庫版35頁6行め「はい、それはもう」と答えた、そのときの自分の姿を、単行本31頁10行め・文…

中島京子『小さいおうち』(10)

昨日の続き。 職場からの帰りに図書館に寄って「新聞の縮刷版」を見たのだが、なかなかメモを取っている余裕もないので、ネットで調べられる範囲で済ませて置くことにした。 ・正人の府立高等学校受験 第一章9、タキが時子の姉「麻布の奥様」の発言を時子に…

中島京子『小さいおうち』(09)

・空白の3年間 6月3日付(2)に、主人公布宮タキはヒロイン時子の実家で1年ほど過ごしたはずなのに、そのことについて何ともしていないことを指摘したのだが、そういえば「小さいおうち」の建つ前の平井一家のことも何等回想されていない。第一章6、単行本…

中島京子『小さいおうち』(08)

・健史の元彼女(2) 健史の元彼女のことは、布宮タキのノートにも記述されている。 健史は昭和15年(1940)の美術雑誌『みづゑ』の〈紀元二千六百年奉祝美術展覧会〉の特集号を、第四章6、単行本136頁7〜8行め・文庫版149頁7〜8行め「大学に気になる女学…

中島京子『小さいおうち』(07)

どこに何を書いたのか自分でも混乱して来たので、以前のものに遡って見出しを附して置いた。 それから、対照に使用しているのは単行本は2013年12月21日付「赤いマント(61)」に示した第四刷、文庫版は5月24日付(01)に挙げた第1刷ではなくて、第6刷(2012…

中島京子『小さいおうち』(6)

・健史の年齢とタキの死亡時期――ノートの執筆時期(3)――*1 前回指摘したように第一章・第二章が1年め、第三章から第七章までが2年めの執筆であることは明らかである。だから改めるとすれば問題の箇所、第一章2、単行本7頁12行め・文庫版9頁14行めの「わた…

中島京子『小さいおうち』(5)

・ノートの執筆時期(2)*1 主人公・布宮タキの家には、近所に住む甥(妹の子)の智*2の家から、大学生の次男の健史が、単行本279頁11〜12行め・文庫版298頁2行め「食料を持っ/ていく」とか「電球の交換に行く」とかそんな用事で、高齢の大伯母の様子を見…

太宰治の文庫本(04)

・新潮文庫2819『津軽通信』(4) 2012年7月8日付「太宰治の文庫本(02)」に「初刷は未見だが」と書いたが、その後、見ることが出来た。十九刷と比較するに、カバー背表紙は組み直されているが黒地に明朝体白抜きの標題はほぼ同じ配置、中央やや下の著者名…

角川文庫の『伊勢物語』(3)

・角川文庫466(3) 2012年6月13日付(1)に追加したように、十一版を見た。 五版と比較して見るに、カバーは、表紙・裏表紙折返しは一致。表紙折返しは上部の紹介文は一致するが下部の広告が、五版は2013年3月5日付「角川文庫の「野性時代」の広告(1)…

中島京子『小さいおうち』(4)

・ノートの執筆時期(1)*1 この小説は、最終章を除いて布宮タキという、第一章2、単行本7頁12行め・文庫版9頁14行め「すでに米寿を越え」た老婆の回想という設定になっている。この主人公は6月3日付(2)で見たように大正6年(1917)生で、年齢の勘定は…

中島京子『小さいおうち』(3)

・単行本と文庫版の対照表*1 今日は主人公布宮タキが手記を執筆していた時期と、最終章について確認して置くつもりだったのだが、その前に、単行本と文庫版の各章節の対応について、5月24日付(1)に各章の対応は既に見ているが、もう少し細かく確認して置…

中島京子『小さいおうち』(2)

今日の分としては、『小さいおうち』と『柳田國男対談集』の続きを書いて置いたのだが、どちらも完成直前にうたた寝をしてしまって、気付いたときには消えていた。1度ならず2度も消えるとは……と呆れたが、仕方がないので『小さいおうち』の方で、最初は場所…

柳田國男・尾佐竹猛「銷夏奇談」(5)

一昨日からの続き。――昨日は日中に出掛けて、西日の中、西に向かって走る各駅停車の、普段は乗らない先頭に乗って、延々と続く光る2本の筋を見ていた。 ・「天狗と神隠し」筑摩叢書版258頁上段5行め〜261頁上段5行め→学研M文庫版761頁15行め〜763頁16行め …

松本清張『死の発送』(3)

はてなダイアリーPlusに加入していないので、私は「アクセス解析」をしたこともないのだけれども、アクセス数が増えたときにどこから来たのか、どの記事を見たのか、が分かるようになっているのであろうか。 ただ、投稿時に、前日投稿分の修正を行うついでに…