瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

「木曾の旅人」と「蓮華温泉の怪話」拾遺(07)

「影②」を先にするべきなのだが、肝心の「影」初出誌の複写が出て来ない。文章はあるのだが『新編綺堂怪奇名作選』刊行前に書いたものなので、照合しての改訂が必要である。そこで、「影」については後回しにすることにして、口承の問題の方を先に片付けておきたい。

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「文藝別冊[総特集]岡本綺堂」(2004年1月30日発行・定価1143円・河出書房新社・207頁)には、「鳩よ!」No.192第18巻第4号(2000年4月1日発行・定価476円・マガジンハウス・201頁)掲載の、加門七海東雅夫の対談「江戸っ子ホラー作家・岡本綺堂」が転載されている(140〜147頁)。これは「特集/江戸っ子ホラー作家/岡本綺堂」(6〜59頁)の巻頭対談(8〜15頁)である。時期的には、『異妖の怪談集(岡本綺堂伝奇小説集 其ノ二)』(1999年7月2日第1刷・定価1600円・原書房・249頁)の「解説」で加門氏が「蓮華温泉の怪話」を指摘した直後、そして東氏が「木曾の怪物」を発見して、東雅夫編『岡本綺堂妖術伝奇集(学研M文庫・伝奇ノ匣2)』(平成14年2002年3月29日初版発行・定価1400円・学習研究社・822頁)に収録紹介する前の対談である。次に、「木曾の旅人」に関する箇所を抜いておこう(引用は初出誌13頁)。

 たとえば「木曽の旅人」なんか、加門さんが発見した実話怪談本所載の話と、内容的には酷似してますよね。
加門 山登りする知人にその話を確かめようとして「蓮華温泉の」って言ったら、その途端「あそこ、出るんだよね」と言うんです。よくよく聞いてみると、それは「木曽の旅人」の話なわけね。平成にまで生き延びる怪談(笑)。
 話のネタだけなら、いろんなバージョンで、みんな知っていたりするわけだ。
加門 同じネタで他の人が書けば、ぜんぜん別種のところに視点を置いてしまって、そこで怖いか怖くないか、あるいは別の怖さになるとか変わってきてしまう。綺堂はそれをひとつの話芸として、作品に仕立て上げていったわけですよね。


 さて、『信州百物語信濃怪奇伝説集』の「蓮華温泉の怪話」を見出したのは加門氏なので、その功績について異議を差挟むつもりは毛頭ないのだが、蓮華温泉とおぼしきところを舞台に同様の話が語られていることは、実は私はずっと先に気付いていた。と、こんな風に書くと負け惜しみみたいで、実際負け惜しみでしかないのだが、その私の知っていた口承の例、私はこれを「木曾の旅人」の原話とは思わなかったのだが、それはなぜなのか、どのように変化しているのか、を、ここで確認しておきたい。
 松谷みよ子の『現代民話考』12冊シリーズは、まず5冊(1985〜1986)、続いて第二期3冊(1987)、それからさらに4冊(1994〜1996)続刊され、後に全12巻がちくま文庫に再録された(2003〜2004)。そのうちの『現代民話考 Ⅴ あの世へ行った話・死の話・生まれかわり』(1986年2月15日第1刷発行・立風書房・定価1,800円・451頁)の「第二章 死の話/六 死者からのサイン/(7)殺された人からの呼びかけ」の327頁「本文」が、この話である。これはちくま文庫版『現代民話考[5] 死の知らせ・あの世へ行った話』(二〇〇三年八月六日第一刷発行・筑摩書房・定価1400円・540頁)では378〜379頁。なお、『現代民話考』では、内容ごとに分類配列し、それぞれの典型的な例話をまず「本文」として示した後、「分布」として北から日本全国の類話が並べられているが、「分布」の331頁に「○長野県白馬岳。本文。/回答者・平岡崇子(東京都在住)。」として、改めて例話のデータが示されている。ちなみにちくま文庫版382頁では、回答者は「中岡崇子(広島県在住)」となっている。
「回答者」とは、この「現代民話考」は日本民話の会の機関誌「民話の手帖」でのアンケートハガキ調査をまとめた連載が基になっているためである。この調査システムのことも、後日概略を報告したいと考えている。それはともかく、「季刊 民話の手帖」第13号(一九八二年十二月三十日発行・定価八八〇円・日本民話の会・160頁)の96〜97頁の間に綴じ込まれたアンケート葉書「現代民話考「死の知らせ」「夢の知らせあの世へ行った話」アンケートのお願い」の回答の一部が、第15号(一九八三年七月一日発行・定価八八〇円・日本民話の会・160頁)に「現代民話考 その十二/死の知らせ 死者からのサイン」としてまとめられている。雑誌版は話数が単行本よりも少ないのだが、この話は初出誌に既に見えている。僅かながら単行本収録の本文とは異同があるので、初出誌の形をここでは見ておきたい。(以下続稿)