瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

森鴎外『雁』の文庫本(2)

 文春文庫とその元版を借りてきたので書いておく。
 「現代日本文学館」というシリーズの1冊で、書名は『舞姫 雁 阿部一族 山椒大夫 外八篇』である。1998年5月10日第1刷・定価600円・492頁。
 この文春文庫版「現代日本文学館」の森鴎外Amazonにない。参考までに太宰治の書影を挙げておく。

斜陽・人間失格・桜桃・走れメロス 外七篇 (文春文庫)

斜陽・人間失格・桜桃・走れメロス 外七篇 (文春文庫)

 他にも夏目漱石芥川龍之介中島敦梶井基次郎が出ている。
 この「現代日本文学館」の素性であるが、8頁(頁付なし)の凡例らしきところに「*収録作品は文藝春秋刊「現代日本文学館」によりました。」とある。
 この「現代日本文学館」とは、小林秀雄編集の四六判の文学全集で、表紙の装幀は青緑色の地に茎の長い花が金で6本半、表紙(4本半)から背表紙(0.5本×2)から裏表紙(0.5本×2)にかけて入り、ぞれぞれの表紙ごとに下が横棒で繋がっている。裏表紙中央には金で文藝春秋のロゴ「文」がある。背表紙の上部に黒で「森 鴎外」中央に金で花の蕾、その下に横書き・黒で「現代/日本文学館」その下・右寄りに金で「1」、最下部に横書き・黒で「文藝春秋」とある。扉には横書きで「森 鴎外現代日本文学館小林秀雄 編集文藝春秋」、裏には縦書きで「装幀 杉山 寧」と、それぞれ茶色で入る。次は口絵(裏は白紙)で「明治36年・41歳 観潮楼前にて」の、正装して羽根の付いた帽子を手にした立ち姿(ネット上に画像あり)。その次が目次(1〜2頁、頁付なし)で収録作品(25〜409頁)は「雁 舞姫 花子 カズイスチカ 妄想 かのように 阿部一族 護持院原の敵討 山椒大夫 魚玄機 じいさんばあさん 高瀬舟 寒山拾得 都甲太兵衛 渋江抽斎」である。3頁(頁付なし)には「森鴎外伝 小島政二郎」とあって4〜22頁がその本文、以下1行26字で1頁25行上下2段組。23頁中扉(頁付なし、24頁白紙)で「森 鴎外」。
 作品の後に吉田精一「注解」(410〜457頁)小島政二郎「解説」(458〜464頁)吉田精一森鴎外 年譜」(465〜475頁)が続き、その裏は白紙で次に奥付がある。「年譜」は満年齢になっている。「現代日本文学館1/森 鴎外/昭和四十二年十二月一日発行」で「定価 四八〇円」。この奥付の下に横書きで「Printed in Japan  本全集の本文は現代表記にいたしました」とある。だから「舞姫」(93〜107頁)も「打ち笑いたまいき。」などと現代仮名遣いになっている。
 目次の最後に「挿絵 福田豊四郎「雁」「高瀬舟」/木下孝則「舞姫」/斎藤 清「阿部一族」「護持院原の敵討」「渋江抽斎」/橋本明治「山椒大夫」/加藤栄三「魚玄機」/望月春江「じいさんばあさん」」とあるように、挿絵が入っていてそれぞれ1頁まるまる使ってある。「雁」の25〜92頁のうち、29・45・71・77・87頁が挿絵である*1

 さて、文春文庫の方だが、太宰のと同じカバー(色違い)で「舞姫阿部一族森鴎外山椒大夫 外八篇」と3行、作品名には振り仮名がある。横書きで上に「現代日本文学館」下に「文春文庫」とある。背表紙には「舞姫阿部一族/ 山椒大夫 外八篇」と青字に白抜きで2行に入り、「森鴎外 [も 11 1] 文春文庫」文春文庫のマーク、最下部に横書きで「600/+税」。裏表紙は右上に紹介文、左上にバーコードなどが入る。定価600円。カバー折返し(ソデ)には「著者紹介」、裏の折返しには「文春文庫/森 鴎外の本」として、この本が挙がっている。
 前付はなく(但し8頁まで頁付なし)扉(1頁)目次(3〜5頁。3頁は扉)そして6頁に「森鴎外(明治末年)」の写真が出る。和服、左前方から顔をとらえた写真、撮影場所は室内で背景がぼんやり写っている(ネット上に画像あり)。7頁中扉で標題「舞姫阿部一族 山椒大夫 外八篇」が入り、その裏8頁に凡例に当たる注意書きが3項ある。1項目は既に紹介した。2項目は表記「現代かなづかいに改めたほか」云々と「差別的表現ととられかねない箇所」の断り書、3項目は「*側注は吉田精一氏のものに編集部が追加しました。」である*2。注は単行本では別にまとめられていたが、文庫本では見開きの左にまとめられている。
 収録作品(9〜428頁)は「舞姫 妄想  かのように 阿部一族 護持院原の敵討 山椒大夫 魚玄機 じいさんばあさん 高瀬舟 寒山拾得 都甲太兵衛」で、単行本では最初(25〜92頁)にあった雁の位置が変わっている(64〜189頁)他、「花子」「カズイスチカ」「渋江抽斎」は収録されていない。そして単行本では巻頭にあった小島政二郎森鴎外伝」が429〜457頁に*3、続いて小島政二郎「作品解説」があるがこれは単行本では「解説」となっていたもの、異同としては単行本には『涓滴』『雁』『天保物語』『ちりひぢ』の初版本の書影を載せるが、文庫本では省かれている。同じく単行本「解説」末尾の「森鴎外を読む人々のために」として列挙されていた11種の書名も省略されている。次に468〜487頁「森鴎外年譜」、初めに「*年齢は満年齢による。」と断り、末尾にも

*この年譜は、文藝春秋刊『森鴎外』(現代日本文学館)所収の吉田精一氏のものをもとに、編集部が作成しました。作業にあたり、鴎外の東京医学校予科入学に関しては上杉伸夫氏の調査を、赤松登志子との結婚については田中実氏の調査を参考にしました。また森鴎外記念館(島根県津和野町)の協力を得ました。なお、今後の調査研究により訂正される点のあることをお断りしておきます。

と行き届いている。以下は単行本にはないもので488〜491頁「〈参考〉森家系譜」、後半の見開き、鴎外の父母以下は全員顔写真が添えられている。492頁は「〈参考〉江戸時代の時刻」で、古語辞典や国語便覧に載っているような、円形の表である。以下の4頁は頁付なく、まず奥付、次の見開きが「文春文庫 フィクション」の目録で芥川龍之介から泉麻人まで。芥川のものの書影を挙げておく。

 そして最後の頁は文春文庫の「現代日本文学館」の広告で、夏目漱石芥川龍之介。ここでは謳い文句を見ておきたい。

*作家の代表作を選びぬいて一冊におさめる
*目にやさしい、読みやすく大きな活字
*これは便利! くわしい注釈が対応するページにある
*第一級の筆者による「作家評伝」「作品解説」
*もっともくわしい「作家年譜」
*現代仮名づかい、新字体で日本文学の名作が読める


 ここまで注意してきた「医学部」の移転時期(1月1日付1月5日付)についても、この謳い文句の通り本文該当箇所(76頁)と同じ見開き(77頁)に「大学医学部が下谷にある時 東京医学校として現在の神田和泉町旧藤堂和泉守邸にあった明治九年以前。」とある訳だが、最後の項目など私には魅力に感じないものもあるものの、全体になかなか工夫されていると思う。しかしながら、結局単行本から文庫本になったのは何冊もないようである。単行本にあった挿絵は、もちろん再録されていない。

*1:挿絵頁には頁付なし。以下、作品ごとに挿絵の位置をメモして置く。93〜107「舞姫」101頁、108〜112「花子」113〜120「カズイスチカ」121〜132「妄想」133〜151「かのように」なし、152〜177「阿部一族」157・165頁、178〜198「護持院原の敵討」183頁、199〜220「山椒大夫」201・215頁、221〜230「魚玄機」225頁、231〜236「じいさんばあさん」235頁、237〜245「高瀬舟」241頁、246〜253「寒山拾得」251頁写真「中央が豊干、左右が寒山、拾得、豊干の尻の下に虎が見える。「四睡図」と称せられる。鎌倉時代の末、元に渡り、彼地で没した霊淵黙庵の作である。」、254〜261「都甲太兵衛」なし、262〜409「渋江抽斎」271・277・303・365頁。

*2:「雁」の注は単行本・文庫本とも171項である。

*3:単行本には写真が15種挿入されていたが、全て省略されている。家族の写真は後述「〈参考〉森家系譜」にあるが。