瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

高木敏雄『日本傳説集』(05)

 ちくま学芸文庫版(二〇一〇年八月十日第一刷発行・定価1200円・筑摩書房・318頁)について、これは宝文館版に代わって今後『日本伝説集』を参照する際の標準となるであろうものだから、触れておきたい。

日本伝説集 (ちくま学芸文庫)

日本伝説集 (ちくま学芸文庫)

 これは、宝文館版の文庫化といって良いと思う。
 奥付の前の頁(頁付なし)に、3項目ある凡例らしき文に、

一、本書は一九一三年八月三〇日に、郷土研究社より刊行された。今回「ちくま学芸文庫」として刊行するに際し、明らかな誤植、誤記以外は、底本の通りとした、したがって、本文中の記述や地名は、刊行当時のものである。なお、漢字は新字にあらためた。
二、(略)
三、資料「高木敏雄 他」は宝文館出版版(一九九〇年三月一五日刊)によった。

とあるのだが、「資料 「高木敏雄 他」」と「 」を挿入するなど微妙に改めて再録されている宝文館版の山田野理夫解説(285〜303頁。宝文館版279〜296頁)の、「『日本伝説集』について」の節(285〜292頁。宝文館版279〜286頁)のうち、286〜287頁(宝文館版280〜281頁)に、

 本書で原書から形式上、除いた文章があるので茲に補足しておくことにする。
 扉にしるされてある文章である。
「特定の条件の下に達したる報告のみを材料として編まれたる此小冊子の著者は多年の研究の結果に基きて行はれたる内容の分類とその解説とによりて日本に於ける将来の伝説研究に対して信頼するに足るべき基礎と標準とを与へんことを唯一の目的として此小冊を心ある人々の前に置く」
 高木敏雄が扉にこの文章を記したのは材料と分類に自信をもってのことである。さらに扉の裏には次のようにある。
「此書の著者は全国各地の愛読者諸子の好意と援助とによりて此書中の不完全なるところを訂正し且つ将来に向つて日本民間伝説蒐集の事業を漸次完成せんとの希望を抱く」

とある*1が、ちくま学芸文庫がこの箇所についてどのように処理しているかというと、底本だとする郷土研究社版(初版)ではなく、宝文館版と同じなのである。また、同じ節の、末尾の段落、

 本書を復刻するに当り漢字は新字*2を用い、少しくルビを附し、さらに項目索引などの頁は本書に従*3て改めてある。

のような、山田氏による編集上の注意点を省かずに、しかも用語を改めた上で載せている辺りからしても、そのことは指摘出来るであろう。
 ここで山田氏のいう「ルビ」について述べておく。もともとこれは新聞連載であったので総ルビだったのだが、単行本『日本傳説集』にはルビが全くない。そこで宝文館版では片仮名でルビを若干附している。ちくま学芸文庫版ではルビの処理については何もいっていないが、宝文館版のルビを平仮名にして、さらに数も増やし、宝文館版の誤りの修正もしている。ただ、難読の地名などには一切附されていない。
 本文については、今後新聞連載と対照していくつもりなので、その折にでも詳しく述べる機会があろう。
 それはともかく、ちくま学芸文庫版が「資料「高木敏雄 他」は宝文館出版版(一九九〇年三月一五日刊)によった」というのは、間違いとはいえないが、前回指摘したような問題点から、やはり昭和48年(1973)執筆(昭和50年微修正)であることが分かるようにしておくべきだったのではないか。宝文館平成2年(1990)版を襲ったせいか、ちくま学芸文庫版にも宝文館昭和48年版の情報は全くないのだが……。
 初版以来、序→凡例→目次→本文、の順なのだが、ちくま学芸文庫版では目次が最初(3〜5頁、頁付なし)に来ている。また「解説」を「著者による解説」(271〜283頁)という奇怪な題に改めていることが気になる。これまでの刊本ではこの「解説」の次に「五十音順項目索引」があるが、ちくま学芸文庫版は山田氏の解説と、新たに附した香月洋一郎「解説 ふり返ること、受け継ぐこと」(305〜311頁)が間に挟まって、最後に横組みで置かれている(318〜312頁)。そして、その次が奥付の前の、ちくま学芸文庫としての凡例に当たる3項、その裏が奥付である。

*1:1月29日付(02)でこれらの文が宝文館版・ちくま学芸文庫版に見当たらないと書いてしまったことについて、削除するとともにお詫びします

*2:宝文館版「略字」

*3:宝文館版「つ」