瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

森鴎外『舞姫』の文庫本(1)

 一応(1)にして置いたが、2月7日付「森鴎外『雁』の文庫本(2)」が、実質(1)に当たるので、今からあっちに(1)の見出しを追加して、これを(2)にしようかとも思ったのだが、ややこしいし、1つの記事に見出しを2つ並べるのもどうかと思ったので、ここに断ってやはり(1)から始めることにした。両方入ってる文庫本は他にもあるが、今後も『雁』をメインにして記述する予定。

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 『舞姫』は未だに高校現代文教科書の定番で、歴史的仮名遣いのまま載っているのだが、文庫本で読もうとすると、文語文なのに現代仮名遣いに変えてあったりして、既に見た文春文庫の「現代日本文学館」がそうだったが、それは上製本の文学全集であった昭和42年(1967)の元版からそうだったので、その点、新潮文庫は見識を示しているけれども、この奇妙な表記も決して一時的な現象ではないのである。
 今時の、普通の高校生に『舞姫』が読めようはずもないが、一応歴史的仮名遣いについては1年次の国語総合で理系の生徒にも教えているはずなので、こんな奇妙な表記にする必要はないのである。そして、大学が学科試験を殆ど課さないという入試なんざやめちまって、奇問難問を出す必要はないのでレベルは高くなくとも一通りの知識はないと解けないような古文を入試科目に加えておくべきだろう。カンニングしなくてもなんとかなりそうだけど、気を付けないといろいろ間違えそうな感じでさ。私は高校で古文を習う前に自分で勝手に読んでいた口なので、文法の説明をするのに苦労した。理屈でなく身に付けたので、それをわざわざ術語で説明しなきゃならんというのが阿呆臭かったのである。けれどもそれでは読めても入試には十分対応出来ないから、それなりにやった。
 それでつくづく思うのだが、昭和末の高校生がそれなりに古文をやっていたのは、やはり受験科目だったからなのである。受験科目でなければ、私は今でも自分勝手に読んでいるだけで、文法などまともにやらなかったろう。いや結局まともな知識にはならなかったのだけれども。そして、これをやらない限り、いくら大学教授が古典の魅力を訴え、歴史への興味を誘うような話をしたところで、それ以上のところを自分で分け入っていくスキルがないのだから、どうにもならないのである。まぁ、そこのところの智恵がなかったから、今の大学文学部、特に古典の衰退を招いた訳で、高校生が受験科目に古文を含めなくなったらどうなるのか、……今は多少そういう認識も広まってきたように見えるが、ついこないだまで、指導層にあるはずの連中の認識は本ッ当にひどかった。こっちの手当もせずに「文系基礎学の危機」などと言ってたのだから。そんなことも書きたいのだが、今は我慢しておく。
 が、近代の作品だからというので「現代文」の授業で古文の作品を取り上げるのがおかしいので、古文なんだから「古典(古文)」でやったらいいのだ。世界史が必修なのに日本史が必修でない、ということが騒がれた時期があったが、日本史の知識がないのに古文を読まされて、摂関政治がさっぱり分からんのに源氏やその辺りの作品を読んでも、どうなんだろう。もちろん日本史をやればいいんだけど。そうしないんなら「舞姫」やら、それから『遠野物語』やらの、近代の古文作品を取り上げた方がまだマシな気がする。
 それはともかく、今時の高校では「舞姫 映画 授業」と入れて検索すればいくつもヒットするように、郷ひろみの映画を見せているようだ。古文なんぞ呪文に近いんだろうから、映像で筋をつかませるのも方便であろう。この映画は私の高校時代に公開されているのだが、もちろん見に行かなかったし、そうでなくても当時、授業で映像資料を活用するという発想があまり行われていなかったし、その後も見たことがない。そんな訳で、私などには「舞姫」と言えば原文が思い出され、そしてヒロミゴーの映画があるんだっけ、と付随して(ネタとして)連想されるのであった。

舞姫 [DVD]

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 さて、『舞姫』である。モデル問題がずっとやかましかったが、最近解明したとする本が出版された。

鴎外の恋人―百二十年後の真実

鴎外の恋人―百二十年後の真実

 個人的には、あまり興味はない。一昨年だかにこの問題を扱った本を読んだことがあって、諸説あることを知り、なんだかどうでも良くなってしまったのである。性格的に、踏み込んだりしたら大変だ、という恐れもある。
 漸く本題である。角川文庫の『舞姫』の変遷について、確認してみたい。
 角川文庫では、現在次の2種が出ている。

舞姫,うたかたの記 (角川文庫クラシックス も 1-1)

舞姫,うたかたの記 (角川文庫クラシックス も 1-1)

 上が小説に解説や資料を添えた従来通りの文庫版で、下は普通は文庫1冊にならない短篇や、長篇のごく一部分(名場面)を取り出して、現代語訳や細かい解説やらを加えたシリーズである。
 角川文庫704 まず、従来の文庫本の方を取り上げる。示した書影は現在出ている版だが、奥付を見るに「舞姫うたかたの記森鴎外/角川文庫704/昭和二十九年六月三十日 初版発行/昭和四十二年七月三十日 三十版発行/平成二十年八月十日 改版四十八版発行/……」とある。定価362円・角川書店・158頁。
 これと、奥付に若干の異同(発行日以外にも)のあるものの、本体の内容は全く同じで、カバーが違うものがある。「……/昭和二十九年六月三十日 初版発行/昭和四十二年七月三十日 三十版発行/平成九年六月十日 改版四十四版発行/……」定価340円。こちらはAmazonの詳細ページに書影はないが、別の鴎外作品が同じ画家の装画で今も出ているから、雰囲気を示すためにここに掲げて置く。

山椒大夫・高瀬舟・阿部一族 (角川文庫)

山椒大夫・高瀬舟・阿部一族 (角川文庫)

 作品名のところ、「舞姫」と大きく出して、その右に作者名、左に小さく「うたかたの記」とある。左下に「角川文庫」。地色は同じような色合い(やや濃い)で、髪飾りを付け左手に扇を持って胸の前にかざし、右手は石の角柱にもたせかけ、指先はドレスの裾をつまんでいる。ハイヒールの靴を履いて、足下には白い女性面と黒っぽい男性面とが置かれている。左足は一段下を踏み、そこから下りの階段が続く。……と、一応文章で説明しようとするのだが、画像を載せれば簡単だとつくづく思う。そう思ってちょっと画像検索してみたら、Amazonのページにこのカバーの画像があった。
 カバーが違うだけだから、この2つの関係は「改装」である。装画以外の異同について、次に確認していこう。(以下続稿)