瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

森鴎外『舞姫』の文庫本(2)

 一昨日貼って置いた角川文庫『舞姫うたかたの記』をクリックしてAmazonの詳細ページに行き、そこでまた書影をクリックすると「クリックなか見!検索」で、本文の一部が読めるようになっている。モニタのサイズにも拠るだろうが、表紙も原寸よりも大きく出て来るし、その次にカバー折返しが丸々収録されている。それからなぜか本体の見返しがあって、扉は枠の一部だけ見えて書名・作者名・鳳凰のマーク・「角川文庫704」という文字は消されている。扉の裏の白紙まで入っている。目次は数字が消されている模様。本文はごく一部、「うたかたの記」の最初の6頁(5〜10頁)が収録されている。……と書いてはみたものの、この「クリックなか見!検索」には差し替えや取り下げなどもあるだろうし、あまりこれに頼ってもいけないような気もする。しかし奥付も一部消されているものの読めるし、カバー裏表紙は完全に収録されている。
 だから、カバーの文章を引用する必要はないので、今でも入手可能な訳だし、改版四十八版と改版四十四版の異同だけを挙げておこう。
 背表紙、改版四十八版は淡い緑色の地に「も1-1 森 鴎外  舞姫うたかたの記   角川文庫」とある。標題以外はゴシック体、◎の一重目は塗り潰されている。改版四十四版では「CLも 1-1 舞姫うたかたの記  森 鴎外  \340」以下水色に白抜きで「角川文庫クラシックス」とある。標題が教科書体でそれ以外はゴシック体。
 裏表紙、改版四十八版は「クリックなか見!検索」にある通り、左上にバーコード2つ、その下にISBNコードに定価が3行に入っており、右上は横書きで説明文がある。改版四十四版は左上にバーコード2つ、その右にISBNコードに定価が3行に入っており、中央部に縦書きで改版四十八版と同文の説明が、行数も同じ(字詰めは若干異なる)で入っている。裏表紙折返しには何もなく、右下に「K」を図案化した応募マークみたいなものがあり、その左に横書きで「カバー 暁印刷」と小さく入っているのみ。改版四十八版では「クリックなか見!検索」でも確認できるように、マークはあるがカバー印刷の社名はなく、上部に「角川文庫|森鴎外の本」の目録が横書きで出ている。
 表紙の折返しも改版四十八版は「クリックなか見!検索」と同一で、横書きで著者の略歴、そして下部にイラストやカバーデザインの担当者名がある。改版四十四版では上部に顔写真が入り、その下に縦書きで同文(一箇所、読点があるべき箇所に句点が使われているが、これは改版四十八版のカバーでは読点に修正されている)、最下部に横書きで「カバー 奥村靫正」とある。
 ちなみに「クリックなか見!検索」の奥付には「昭和二十九年六月三十日 初版発行/昭和四十二年七月三十日 三十版発行/平成二十年五月十五日改版四十七版発行」とある。「クリックなか見!検索」で出るのは一部分で、しかも頁によっては部分的に消去されているために断言は出来ないが、やはり改版四十八版と同じものに見える。
 と、ここまで書いてきて、おや? と思う。
 先に見た新潮文庫『雁』の奥付では、発行日のデータが3行あって、まず1行目が初版「昭和二十三年十二月五日発行」そして3行目に今手にしている本が増刷された日付と刷数が例えば「昭和六十年七月五日七十五刷」或いは「平成二十年十月五日百十一刷」などと入り、2行目に、前者の場合では「昭和四十三年三月三十日四十二刷改版」後者では「平成二十年二月二十五日百十刷改版」と、その本の版がいつの時点での改版であるかを示す日付・刷数が入っていた。内部徴証に照らしても、奥付や広告には増刷時点での情報が反映されているものの、本文については七十五刷は四十二刷、百十一刷は百十刷をそのまま引き継いだものとなってい(るらしかっ)た。
 一方、角川文庫『舞姫うたかたの記』の奥付はやはり発行日のデータが3行あって、1行目の「昭和二十九年六月三十日 初版発行」は文字通りに受け取れば良いし、3行目の「平成九年六月十日 改版四十四版発行*1」「平成二十年五月十五日改版四十七版発行」「平成二十年八月十日 改版四十八版発行」は(改版四十四版と改版四十七版・四十八版で奥付の形式が僅かに異なるものの)増刷を「刷」ではなく「版」として数えているだけなので、「初版」に対する「改版」の、四十四刷・四十七刷・四十八刷、というふうに考えられそうだ。
 そこで問題になるのは2行目の「昭和四十二年七月三十日 三十版発行」である。新潮文庫の2行目の意味ははっきりしていた。しかし、角川文庫の2行目の意味が、どうも良く分からない。
 この「三十版発行」では、三十版の時点で「改版」があったようには読めない。事実、活字を見る限り、昭和42年に組まれたものには見えない。改版四十四版〜四十八版(以下、うるさいので「平成の諸版」と呼んでおく)の142〜147頁にある「主要参考文献」を見るに、一番新しい文献は「山崎國紀編 森鴎外・母の日記(昭和六〇・一一、三一書房)なのである。どう考えても、平成の諸版は昭和61年(1986)頃に組まれたものとしか思えない。「主要参考文献」の最後には「雑誌特集号」(146頁10〜)が11タイトル挙がっているが、その最初は「「現代のエスプリ」森鴎外(昭和四三・一)」で最後は「「信州白樺」森鴎外特集号(昭和五六・四)」なのである。
 こうして見ると、どうも、「昭和四十二年七月三十日三十版発行」というのは、「昭和二十九年六月三十日」の「初版」が最後に増刷された日付のようにも思えてくる。そして昭和42年(1967)の後半に改版され、さらに昭和61(1986)年に改版されたもののようである。とにかく、平成の諸版がいつの時点での版の増刷なのかは、奥付には全く示されておらず、内部徴証に頼って推測するしかないのである。
 と、つらつら書いてみたが、この謎、といって分かってる人は分かっているんだろうが、『舞姫』の角川文庫版は新潮文庫岩波文庫に比して所蔵が少ないらしく、あまり見かけた記憶がない。しかもちょっと古いものは新潮・岩波でも見かけないくらいだから、図書館歩きではすんなり解消されるとも思えない。だから、ぼちぼち、以前の版を見たら記載して行こうと思っているのだが、まず、昭和47年の改版八版を見ることが出来たので*2、そこから、この疑問をほぐして、すぐに形にはならんだろうが、みたい。(以下続稿)

*1:Amazonの詳細ページにある発行日に合致している。

*2:などとしれっと書いたが、これは記述の順序で後回しにしただけで、実はこの改版八版を最初に見て、奇異に思ったのが角川文庫版『舞姫』を借り集めるきっかけだったのだが。