瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

Henry Schliemann “La Chine et le Japon au temps présent”(01)

 アルファベットの題にしたが私に語学力はまるでない。本書に限らず、原文で読もうなどと考えたこともない。邦題が複数あり、いずれも原書名の直訳ではないので、仮に原書の扉の書名を挙げて置いたまでである。フランス語の著述で、パリで1867年に刊行された。
 この本について書くのは、少々気が引ける。あまりにも初歩的な問題点にしつこく突っ込みを入れることになるからである。Amazonレビューも絶賛で占められており、そこに水を差すような物言いをするのは、さすがに、私のような者でも躊躇される。しかしながら、既に事情を承知している人も当然いるはずなのだが、遠慮しているのか匂わせるにとどめているので、参考までに私の気付き得た範囲のことを書いて、参考に供して置くのも無意味ではない、と思ったのである。
 邦訳は、2種類ある。いずれ両者を比較するつもりだが、語学力がないので訳の善し悪しは分からない。例によって、突っ込むのは本としての善し悪しであり、改版にまつわる疑問点の指摘といった瑣事に終始するつもりである。
 まずは文庫版にもなっている新しい訳の方を見ていくことにしよう。
 ハインリッヒ・シュリーマン/石井和子 訳『シュリーマン旅行記 清国・日本(講談社学術文庫1325)』(1998年4月10日第1刷発行・定価720円・講談社・222頁)の、第1刷と第9刷(1998年4月10日第1刷発行・2000年11月13日第9刷発行・定価720円・講談社・222頁)とを比較して行くこととする。

シュリーマン旅行記 清国・日本 (講談社学術文庫 (1325))

シュリーマン旅行記 清国・日本 (講談社学術文庫 (1325))

 カバーは見たところ、変わったところはない。裏表紙折返し右下に第1刷にはあった「●特製ブックカバー贈呈」と「●宛先」の2項が、第9刷ではなくなっているのが目立つ(「キリトリ線」と「1325」の番号の入ったトキのシンボルマークはそのまま残されている)。裏表紙の右上にある縦書き8行の説明文も同じに見えるが、4行目、第1刷で「三ヵ月という短期間の滞在にもかかわらず、江戸を」となっているのが第9刷で「一ヵ月という短期間の滞在にもかかわらず、江戸を」となっているのが違う。もちろん「三ヵ月」が誤りなのだが、この誤りには後述するような、理由がある。
 奥付を見るに第1刷・第9刷というのみで改版などとは断っていないのだが、実はかなり変わった箇所がある。これらは第9刷以前に改変されていたのだろうが、全ての刷を確認するのはなかなか困難であろうから、差し当たり第9刷と比較して、今後もしいつの改変だったかが分かれば、追記することとしたい。
 さて、目次(5〜6頁、頁付なし)は第1刷・第9刷全く同一である。そのうち、原著にない部分を抜いて見よう。

訳者あとがき ………………………………………191
学術文庫版訳者あとがき …………………………198
付 シュリーマンの館 ……………………………205
解 説 ………………………………木村尚三郎…217
シュリーマンの航路地図 …………………………219
シュリーマン関連年表 ……………………………220

 

 第1刷を見るに、木村尚三郎「解説」は212頁から始まっており、目次とは全く相違している。第9刷は213頁から始まっていて、いずれにせよ217頁ではない。「シュリーマンの航路地図」だが、第1刷では218〜219頁の見開きである。確かに図名は219頁(図の左上に横書き)に入っているのだが、やはり218頁とすべきではないだろうか。見開きだからどうせ同じ頁を開くことにはなるのだが。これが、第9刷では218頁は「解説」の末尾(第1刷の217頁と同一)で、この図は219頁に縮小して描き直したものが、ノドを上にして横倒しにされて、窮屈に詰め込まれている。これは「付 シュリーマンの館」が第1刷では205〜211頁だったのが、第9刷では212頁に「附記」が追加されていて、1頁増えたのを、地図を1頁に縮小して調整したためである。しかし、205〜211頁の方も全面的に改稿されていて、もはやどこをどう直したと一々指摘出来ないくらいに違っているのである。(以下続稿)