私は『遠野物語』は新潮文庫で読んだのだが、今度人に勧めるつもりで、書店で新潮文庫の『遠野物語』を探したら見当たらなかった。絶版品切れになっているようである。その後、図書館で見つけてぱらぱらめくってみると、私の持っているものと、カバーは同じなのに内容が全くだいぶ違っているので吃驚した。そして、これでは人に勧められないと思った。まぁそれは私の考えで、別段勧める人がいても構わないのだが。そこで、これを機会に『遠野物語』について、昔の記憶やぼちぼち調べてみたことについて、書いて置こうという気になった。
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新潮文庫2146(昭和四十八年九月三十日発行・昭和五十八年六月十五日二十四刷・定価240円・新潮社・228頁)
新潮文庫4885(平成四年五月二十五日発行・平成五年四月十日三刷・定価272円・新潮社・144頁)
カバー表紙は全く同じである。折返し、旧版は右下に「カバー 田渕俊夫」とあるのみだが、新版には「新潮日本文学アルバム/柳田国男」の広告が入っている。背表紙は、旧版は白地、新版は黄色地で、標題と著者名は同じ位置にある。下部、旧版「新潮文庫〔草〕 四七=1=A240」新版「や 15 4 新潮文庫280|」。
裏表紙、右上に横書き11行の説明文があってここは一致する。旧版ではこの説明文の上と下に横線が引かれているが、新版では文の下にのみ横線がある。文の左は旧版では余白だが、新版ではバーコードが2つ、それから定価の表示がある。
中央の横線の下、旧版では中央に葡萄のマークがあるが、新版では右端にあり、左寄りに「ISBN4-10-104604-9/C0139 P280E」とある。旧版では最下部に「ISBN4-10-104701-4 C0139 \240E 定価240円」とある。
裏表紙折返し上部に、旧版では「新潮文庫/柳田国男の作品/遠野物語/日本の伝説」とあり、新版では「新潮文庫/柳田国男の本/遠野物語/日本の伝説/日本の昔話/毎日の言葉」となっている(レイアウトの異同省略)。下部に小さく「カバー印刷 錦明印刷」とあるのは一致*1とあり、その下に葡萄のマーク。【2012年4月2日追記】三十八刷(平成二年六月五日)を見た。カバー裏表紙のISBNコードのところ、最後が「P320E 定価320円」となっていて、定価の下に(本体311円)とある。バーコードはまだない。【2013年6月27日追記】三十六刷(平成元年六月五日)を見た。カバーは三十八刷にに同じ。なお、奥付の前に目録10頁、うち最後の3頁が「新潮文庫最新刊」。))。
ちなみに、Amazonの詳細ページの「登録情報」に、
文庫: 144ページ
出版社: 新潮社 (1973/09)
ISBN-10: 4101047049
ISBN-13: 978-4101047041
発売日: 1973/09
とあるのはおかしい*2。昭和48年(1973)版を絶版にして、全く別の版として(カバーは踏襲しているが)平成4年(1992)版を出したのだから、詳細ページは旧版「文庫: 228ページ /出版社: 新潮社 (1973/09)」と新版「文庫: 144ページ /出版社: 新潮社 (1992/05)」を別々に作るべきだ*3。
扉の前に折り込みの「遠野郷本書関係略図」があるのも共通するが、旧版は鮮明に印刷されているのに、新版では「土淵村」附近の地名が随分かすれて読みづらくなっている。扉(1頁、頁付なし)は「2146」が「4885」に変わっているのみだが、目次(3頁、頁付なし)が大きく異なる。旧版では小さく「初版序文……………七/再版覚書……………一一」とあって、次に大きく「遠 野 物 語……………一五/遠野物語拾遺……………七五」とあり、以下、また小さく折口信夫「後記」と山本健吉「解説」、年譜に索引とあったのが、新版ではまず大きく「遠 野 物 語……………五」とあって、以下小さく山本健吉「解説」吉本隆明「『遠野物語』の意味」そして年譜と索引となっている。
中扉(5頁、頁付なし)は「遠野物語」とのみ。新版は一回り大きな活字で刷られている。中扉の裏(6頁、頁付なし)は旧版では白紙だが、新版では「此書を外国に在る人々に呈す」とある。これは『遠野物語』初版(明治四十三年六月十四日發行・實價金五拾錢・聚精堂・6+4+114頁)にあった献辞である。
7頁、旧版には「初版序文」とあるが、新版は同じ文章だが冒頭が4行分空白となっていて題は入っていない。この辺りは『遠野物語』初版本(近代デジタルライブラリー)*4に倣ったものであろう。
旧版は9頁まで(10頁は白紙)だが新版は10頁まで。これは字詰めが異なるためで*5、旧版はこの「初版序文」に限らず、1頁18行/1行43字で組まれているが、新版は1頁15行/1行41字で、ずいぶんゆったり組まれている。そして気になったのが、振仮名が旧版では現代仮名遣いだったのが、新版では歴史的仮名遣いに改められていることである。『遠野物語』初版には「名處」に「ミヤウシヨ」とあるのみ。(以下続稿)
*1:【2012年2月17日追記】三十四刷(昭和六十三年三月三十日)と三十五刷(昭和六十三年五月二十五日)を見た。カバーは同じ。表紙折返しには「新潮日本文学アルバム/柳田国男」の広告がある。裏表紙折返しには「日本の昔話」まで3点。裏表紙は説明文の上下に横線があり、下の横線のすぐ下に「ISBN4-10-104701-4 C0139 ¥320E 定価320円」((【2019年5月18日追記】半角の「¥」がはてなブログ移行時に「\」に文字化けしたので全角「¥」に置き換えた。
*2:それから、「『遠野物語』と『遠野物語拾遺』が一冊にまとめられている。折口信夫の「初版解説」と大藤時彦の「解説」が付けられている。……」というレビュー(志村真幸「新旧取り混ぜて」2006/2/26)が付いているのだが、前半は新潮文庫旧版と合致するものの、大藤氏の「解説」があるのは角川文庫版である。角川版の方に移すべきだろう。角川版については後日触れる予定。【4月7日追記】その後、レビュー欄を確認していたところ、集英社文庫版にもこのレビューが表示されており、そこで初めてこの志村氏のレビューには、ちゃんと「レビュー対象商品: 遠野物語 (角川文庫) (文庫)」と注記されていることに気付いた。全く注意不足で申し訳ない次第で、お詫び申し上げます。ただ、この注は、自戒と「紛らわしいよ……」という逆ギレも込めて、削除せずに置きます。
*3:【2013年1月23日追記】新潮文庫4885の八刷を見た。平成七年八月五日八刷・定価311円。カバーは三刷にほぼ同じで、異同は背表紙が白地(褪色か)であること、裏表紙の「P320E」などの価格表示。目録は11頁+「新潮文庫最新刊」3頁。【2014年5月23日追記】新潮文庫4885の十三刷を見た。平成十年一月三十日十三刷・定価324円。カバーの異同は、背表紙の地色が黄色で最下部が「\324」、カバー裏表紙、中央の横線の上。バーコード2つめの下4桁「3248」、「定価:本体324円(税別)」、横線の下、2行めの右側「\324E」。カバー裏表紙折返し、最下部右側に「デザイン 新潮社装幀室」追加。カバー表紙折返し、上部の写真と略伝は、今手許にある新潮文庫3043『日本の昔話』四十一版にあるものと同じ。目録は11頁+「新潮文庫最新刊」3頁。奥付、電話番号の左に「振 替 〇〇一四〇―五―八〇八」、下部の横組み「|印刷・東洋印刷株式会社 製本・有限会社加藤新栄社/© Tamemasa Yanagita 1910 Printed in Japan|」。
*4:【2012年12月22日追記】当初貼って置いた(近代デジタルライブラリー)がリンク切れになっているので貼り直した。
*5:と書いたが、10頁には3行しかないので、7頁冒頭の余白を詰めれば収まらなくはない。