瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

Henry Schliemann “La Chine et le Japon au temps présent”(12)

 昨日の引用部分に注釈を加えてみよう。
 「われわれは日のあるうちに」とあるが、これは長崎出航当日(8月5日)ではなく、翌日(8月6日)のうちに大隅海峡を抜ける、ということである。ここを抜けてしまえば、何の障害もなく日本沿岸の太平洋を航行することになる。従って、「つぎの朝」に開聞岳が見えるところまで来ている、というのは順調な航海である。
 しかるに、訳注に「二つの円錐形をした火山性の峰」を〔開聞岳桜島〕としているのはいただけない。暴風雨に襲われて待避するために「鹿児島湾 Bay of Kagoshima を突進」しようとしたものの、「それほど遠く進む必要はなかった」とあって、鹿児島湾を開聞岳桜島の「中間」まで入り込んだとは、とても思えない(62頁)。
 かつ、鹿児島湾に進んだのは暴風雨のためであって、その日の朝(「つぎの朝」)の時点では、大隅海峡を日没までに抜けることが目標だったのであり、それ以前に鹿児島湾に入り込んでいる理由がない。
 では、この「二つの円錐形をした火山性の峰」はどこであろうか。ルートからして鹿児島湾には入っていないから、桜島の可能性はない。1つは開聞岳であろう。5月5日付(9)に紹介したフォーチュンも「円錐形」の開聞岳が「この航路を通る船員にとって格好の目標になっている」と指摘していた。美麗な円錐形で裾野は海に続いている。「高さは二千五百フィート」すなわち762mは実際の開門岳の標高924mとは誤差が大きいようであるが、フォーチュンは「標高二三四五フィート」すなわち715mと記述していたくらいだから、目測なら誤差の範囲内と言えようか。もう1つはもちろん硫黄島(標高703.7m)である。「二十マイルほど隔たっていた」とあるのも実際には約27マイル(約44km)だが、これも目測としては誤差の範囲内であろう。この二つの火山の「中間」は、まさに一日がかりで通過しようとしていた大隅海峡の西部に当たり、航路とも合致する。
 地図は貼り付けないので、GoogleマップなりYahoo!地図なりで開聞岳で検索していただきたい。
 問題は、この「円錐形をした火山性の峰」の1つを、オリファント硫黄島と認定していないことである。これは、20kmほど隔てての眺望で、形は稜線のシルエットにより確認されたが、噴煙までは目視ではよく確認出来なかったためであろうか。ちなみにフォーチュンやシュリーマン硫黄島の噴火の情景を印象深く記述しているのだが、両者とも夜景であることが注意される。すなわち、日中は噴煙が確認される程度であったのが、夜になると火映現象などによって夜空が赤く照らされ、特に印象深く眺められたのではあるまいか。オリファントは暴風雨に巻き込まれたことで、この光景を見る機会を逸してしまったのであろう。