瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

柳田國男『遠野物語』の文庫本(15)

 旧版と新版とでどこが違うのかというと、内容は違わないようである*1。見た目の印象はかなり違う。扉・目次・中扉など、若干組み方が違っているし、本文は旧版では1頁15行/1行43字(12.0×7.7cm)であったのが、新版は1頁16行/1行39字(11.7×8.0cm)で、活字が大きくなっており、行間も詰まっている。目一杯に詰めて(そんなことはまずないが)645字が624字に減っている。その分、2頁で1行分、32頁で1頁分増えることになる。計算上は。
 しかし、頁数は実際には、5頁しか違わない。
 『遠野物語』の話の配置なども、「」話までは新旧とも同じ頁にあったが、「」話から、旧版は19頁の最後の行から、新版は20頁の3行目から、とズレ始めている。しかし、82〜83頁に「遠野郷本書関係略図」すなわち『遠野物語』増補版(再版)に載る同名図を見開きで、右から「縣 手 岩」などと右からの横書きだったのを「岩 手 県」と左から、また新字体に改めた図が入り、84頁は空白(頁付なし)、そして85頁に中扉「山の人生」(頁付なし、86頁空白)となっているのは、新旧同じである*2
 結局新版でも『遠野物語』が同じ頁数に収まってしまったのは、以下の2つの理由による。
 まず、挿入図の処理である。旧版では「八〇」話の「田尻氏の家のさま」つまり間取り図を51頁に横転させてまるまる1頁を使って挿入し、さらに52頁右上(17字×9行分)に「常居又ハウチ」の図があった。新版ではこれを52頁に、上部に旧版51頁の図を縮小し横転させずに収め、下部に旧版52頁の図をこちらは原寸のまま収めている。旧版54頁の「大洞万之丞の家の建てざま」の間取り図は、新版でも55頁に原寸のまま収録されている。とにかくこれで17字×9行分は詰められた訳だ。
 次に、旧版では『遠野物語』の本文は80頁4行目までで以下余白、81頁はまるまる白紙(頁付なし)であった、この余白分に収まったためである。すなわち新版では81頁6行目まで本文がある。

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 併収の『山の人生』も、89〜91頁の「目次」を見るに、初めのうちは殆どズレていない。「一一 仙人出現の理由を研究すべきこと …………………………………一三四」までは、「九 神隠しに遭いやすき気質あるかと思うこと」が旧版「一二四」新版「一二五」とズレるのみ(本文では、この章題は旧版は124頁の最後の行、新版は125頁の最初の行で、1行しかズレていない)。但し「一二 大和尚に化けて廻国せし狸のこと」以下は1頁2頁とズレが大きくなり、旧版では「山人考」が291頁までであるのに対し、新版では295頁までで4頁ズレている。
 旧版では292頁の左側に岩波文庫編集部の、表記変更の断り書が入っている。新版では同じ文面は奥付の前(335頁の裏)にある。続く「索引」(旧版293〜304頁)は『山の人生』の索引だから、ここに本全体の表記に関する断り書を入れるのはおかしいのだが、奥付の前の頁もぎっちり文字が入っていて余裕がなかったためこんなところに配置したらしい。しかし、この断り書は3頁の、全体の「目次」の裏にでも位置させるべきではなかったか。本書の表記で最も問題になるのは、『遠野物語』の文語文を「現代かなづかいに改め」てしまったことなのだから、奥付の前に余白がないなら『遠野物語』に近い位置に置くべきだったろう。
 ちなみに新版では『山の人生』の「索引」(297〜306頁)の前(296頁)は白紙(頁付なし)である。この「索引」、3段組であるのは同じだが、旧版18行だったのを新版では21行にして、12頁を10頁に圧縮して、ここでズレを2頁にまで詰めている。
 桑原武夫「『遠野物語』から」は旧版305〜316頁・新版307〜319頁、桑原武夫「解説」旧版317〜330頁、新版321〜335頁。「解説」のうち、気になるのは、旧版で最後の「テキスト」に関する段落が1行空けて始まっていた(そして330頁の最後の行まできっちり詰まっている)のが、新版では334頁に4行空白を作って、335頁の頭から「テキストは、……」としてあることくらい*3である。 

*1:誤植の修正などもあるのかどうか、本文の確認まではしていない。

*2:但し、82〜83頁の図は新版では若干縮小されている。

*3:確かにその前の「……、この解説を書き改めねばならぬ日のくることを切望する。」で、解説の本題は終わっているので、余裕を以て配置したのであろう。