瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

高木敏雄『日本神話傳説の研究』(1)

 高木敏雄の没後、生前の著書『日本傳説集』『比較神話學』が再刊され、また遺稿集『日本神話傳説の研究』が編まれた。主な版としては大正14年(1925)版と昭和18年(1943)版、それから平凡社東洋文庫の増訂版(1973〜1974)がある。
 本書については、2月25日付「高木敏雄『人身御供論』(3)」で触れた。そこでも述べたように、従来知られている大正14年初版(岡書院)及び昭和18年版(荻原星文館)と、増訂版の平凡社東洋文庫版とは、編成の方法にかなりの違いがある。大正14年版と昭和18年版にも注意すべき異同がある。
 さて、増訂版(平凡社東洋文庫版)以前の諸版については、大林氏の記述にある大正14年版と昭和18年版とを見て、大正14年版を殆どそのまま流用したのが昭和18年版と見えたので安心して、この2つしかないかのように思い込んでしまったのだが、問題はそう単純でなかった。実はもっと多くの版がある。見ようと思えば私のような者でも観られなくもないが、しかし研究機関に所属してない身には手続きが面倒だし暇もないので、ネットで調べ得たことだけを報告して、後は何方か篤志家に引き継いでの調査をお願いしたい。私の調べたことに言及する場合「瑣末亭主人『瑣事加減』(ブログ)」とでも書いて触れてもらえれば結構です。コメント欄で一言報告してもらえると幸いです(コメントとしてはアップしません。記事として出します)。もし誰も現れなければ、ずっと先に駒場近辺に出没するような用事が発生した折にでも、ついでに調べることにするが、いつになるか分からない。*1
 以下しばらく、自分の迂闊に遅ればせながら気付いた事情を説明して置く。

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 大林太良編『増訂 日本神話伝説の研究2(東洋文庫253)』(1974年5月24日初版第1刷発行・1988年12月20日初版第6刷発行・平凡社・醞+447+17頁)442〜443頁、「一九七四年二月」付「あとがき」の最後に、

 また、第一巻解説中、私は『日本神話伝説の研究』の発行所を郷土研究社と記したが、これは岡書院の誤りであったので、ここに訂正しておきたい。

とある(443頁)。該当箇所は、大林太良編『増訂 日本神話伝説の研究1(東洋文庫241)』(1973年10月16日初版第1刷発行・1987年1月30日初版第6刷発行・平凡社・x+397頁)378〜394頁「解説」の、次の段落(393頁)らしい。

 最後に、この増訂版の編集方針について説明しておきたい。『増訂 日本神話伝説の研究』という題名からも察せられるように、本書は大正十四年に岡村千秋編により岡書院から上下分冊で出版され、昭和十八年に荻原星文館から一冊本として出版された高木敏雄の論文集『日本神話伝説の研究』に増訂を加えたものである。

 私はまだ初版第1刷を見ていないが、初版第1刷では「岡書院」が「郷土研究社」となっていたのであろう。それはともかく、気になるのは大正14年の岡書院版が「上下分冊」とされていることである。
 何となれば、私が今借りている大正14年版はどう見ても最初から「一冊本」なのである。「郷土研究社」としていた辺りからしても、大林氏は初め、大正14年岡書院版を見ずに書いていた。指摘を受けて「岡書院」と訂正したものの、やはり大正14年版を確認しないままであったので、大正14年版は「一冊本」なのに「上下二冊」を訂正できていないのである。
 ここから翻って考えるに、大林氏は昭和18年荻原星文館版以前に刊行された、大正14年の「序」や「凡例」のある、「上下二冊」本の『日本神話傳説の研究』を見ているのだ。(以下続稿)

*1:6月11日付(2)参照。