瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

「木曾の旅人」と「蓮華温泉の怪話」拾遺(12)

 【B】の続き。踊り字のうちくの字点は「 く 」「 ぐ 」とした。

 わたしは一向面白くなかつたが、親父は閑寂で好いとかいふので、その輕井澤の大/きい薄暗い宿屋*1に四日ばかり逗留してゐました。考へてみると隨分物好きです。する/と、その三日目*2は朝から雨がびしよ く 降る。十月の末だから信州のこゝらは急に寒/くなる。おやぢと私とは宿屋の店に切つてある大きい爐の前に坐つて、宿の亭主を相/手に土地の話などを聽いてゐると、やがて日の暮れかゝるころに、もう五十近い大男/がずつと這入つて來ました。その男の商賣は杣で、五年ばかり木曾の方へ行つてゐた【一六八】が、さびれた故郷でもやはり懷しいとみえて、この夏の初めからこゝへ歸つて來たの/ださうです。*3われ く も退屈してゐるところだから、その男を爐のそばへ呼びあげて、/色々の話を聽いたりしてゐるうちに、杣の男が木曾の山奥にゐたときの話をはじめま/した。


 振仮名一覧。要領は前回と同じ。

 かうおもしろ・おやぢ・しづか・い・かるゐざは・おほ/うすくら・やどや・か・とうりう・かんが・ずゐぶんものず/みつかめ・あさ・あめ・ヽヽヽ*4・ふ・ぐわつ・すゑ・しんしう・きふ・さむ/わたし・やどや・みせ・き・おほ・ろ・まへ・すわ・やど・ていしゆ。あひ/て・とち・はなし・き・ひ・く・ぢか・おほをとこ/ヽヽ*5・はひ・き・をとこ・しやうばい・そま・ねん・きそ・はう・い【一六八】こきやう・や・なつか・なつ・はじ・かへ・き/たいくつ・をとこ・ろ・よ/いろ く ・はなし・き・そま・をとこ・きそ・やまおく・はなし//

*1:光文社文庫版「部屋」。

*2:光文社文庫版「二日目」。

*3:光文社文庫版はここで段落変える。

*4:「びしよ」に傍点。

*5:「ずつ」に傍点。