瑣事加減

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塩嘗地蔵(09)

 小暮満寿雄 絵と文『ぶらり鎌倉スケッチ散歩(TRAJAL Books)』(1999年5月19日初版第1刷発行・定価1500円・トラベルジャーナル・237頁)。四六判、縦書き。口絵4頁分がカラー。

ぶらり鎌倉スケッチ散歩 (Trajal books)

ぶらり鎌倉スケッチ散歩 (Trajal books)

 まず「あとがき」(236〜237頁)の冒頭(236頁)を引用してみる。

 はじめに本書の話をいただいたとき、私は、愚かにも鎌倉は近場で取材が楽だろうと勝手に思い込んで喜んでいた。だって鎌倉は、横浜にある私の仕事場からわずか一時間ほど。思いついたらすぐ出かけられる距離ではないか。
 ところがこの鎌倉という場所は、歩けば歩くほど深みにハマっていくような土地で、さして広くない地域に謎がぎっしり詰まっていたのである。

という訳で、本文は謎に対する小暮氏の蘊蓄を傾けた饒舌体で、全六章、「第一章 四季/第二章 鎌倉史跡なんでも対決/第三章 鎌倉に住む/第四章 鎌倉アート三昧」がテーマ別で、ガイドブックというよりエッセイで、取材の様子だとかかなり素の小暮氏が出ている。「第五章 ぶらぶら散歩―その一」と「第六章 ぶらぶら散歩―その二」が地域別で、各5日ずつ、計10日分の散歩コースが紹介されているが、ここも蘊蓄が多い。光触寺は第五章(121〜159頁)の「四日目 金沢街道」(144〜151頁)に見える。この節は、■塩の道/■朝比奈切り通し/■光触寺/■明王院から浄妙寺の迷路/■杉本寺、という順序になっており、このうち「■光触寺」の項(148〜149頁)、本尊の阿弥陀三尊像が「拝観には十人以上で予約が必要」とのことで、ぶらぶら散歩には適さないとてか、項の大半を塩嘗地蔵に費やす(149頁)。以下に引用して、全体の調子の一端を窺うこととする。

……。ならば、ここの石仏、塩嘗地蔵を見てみよう。何の変哲もない石仏だが、ここに商人が塩を捧げたところ、なくなっていたのでこの名がある。御利益は商売繁盛だ。もちろん、石の地蔵は塩なんか嘗めたりしない。きっと、かっさらっていった奴がいたんだろう。
 塩というのは、武士のように戦う人間に欠かせない。そしてお清めの塩。相撲の塩。牛に嘗めさせたのがはじまりという、料亭の盛り塩。あの険しく巨大な朝比奈切り通しを削った人足たちも、ずいぶん多くの塩を嘗めたんだろうな。