瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

神奈川県の案内書(01)

 昨日紹介した神奈川県高等学校教科研究会社会科部会歴史分科会 編集『鎌倉散歩24コース』の前付(I〜Ⅳ頁)の前半I〜II頁(III〜IV頁は「目次」)神奈川県高等学校教科研究会社会科部会歴史分科会長三杉克篤による「1993年12月」付の「発刊によせて」には、次のような1段落がある。

 神奈川県高等学校教科研究会社会科部会歴史分科会【以上I頁】は,1970(昭和45)年,『神奈川県の歴史散歩』を全国にさきがけて出版し,版をかさねてきました。1987(昭和62)年にはよそおいも新たに全面改訂した新書判,上下2巻の『神奈川県の歴史散歩』を発刊し,多くの人々から好評を得ております。これら長年の実績の上に,この度,『鎌倉散歩24コース』を出版することになりました。学術調査や史実にのっとり,編集・執筆委員の先生方の研究討議をへて編集された,単なる観光案内にとどまらない,鎌倉の啓蒙書であるといえます。


 また178頁、「『鎌倉散歩24コース』編集委員長」中里行雄による「1993年12月」付の「あとがき」は、以下のように書き出されている。

 神奈川県の歴史の先生方が企画した『神奈川県の歴史散歩』(山川出版社,昭和45年刊)は昭和62年に新版『神奈川県の歴史散歩』となってからも幸い好評を博して現在に至っている。さらに私たちの神奈川県は“鎌倉”という,日本の歴史上重要な都市をもつという好条件を有している。こうした土台の上に,中学・高校生でも充分理解・利用できる“鎌倉を知る”本として,『鎌倉散歩24コース』という本書が生まれた。従来の類書とは違い,現場の高校の歴史の先生方が自分の足で歩き,調べ,学問的成果も充分に取り入れている。
 本書は2部構成になっている。I部に……


 「新版」を冠していない文庫版の『神奈川県の歴史散歩』は7月28日付(026)で紹介したが、昭和51年(1976)刊である。おや、と思ってまだ返却せずに手許にある1976年版『神奈川県の歴史散歩』を見てみるに、奥付には昭和45年(1970)版の存在を示すような記述はない。そこで前付を見るに、x鄴頁のうち鄯〜鄱頁が東京大学教授杉山博の「昭和五一年三月」付の「序」、鄴〜鄽頁に神奈川県高等学校教科研究会社会科歴史部会会長手島益次郎の「昭和五一年三月」付の「発刊によせて」、そしてv頁以下が「目次」だが、杉山氏の「序」にも記述はない。そこで手島氏の文を見るに、鄴頁から鄽頁に跨る1段落に次のように見えていた(文中「……」は原文のママ。本ブログで引用省略に「……」を使用しているのは、考え直した方が良いかも知れない)。

 私たちはさきに「神奈川の歴史散歩」を山川出版社より発刊しました。身近の史跡を掘りおこし、高校生の歴史に対する興味・関心をよびおこすことが肝要……と考えたからです。そして、稿をあらたに、シリーズの一巻としたのが本書です。執筆者は全員、県内各高校の日本史担当の【以上鄴頁】ベテランです。編集会議は三年にわたり、毎月少なくも一回は開かれ、資料収集・現状確認・写真撮影には全員が県内くまなく歩きました。


 すなわち、『鎌倉散歩24コース』が昭和45年(1970)に『神奈川の歴史散歩』を出したとするのは誤りで、このときの書名は『神奈川の歴史散歩』だった。当時はシリーズではなく「神奈川県」だけ「先生方」の「企画」として「全国にさきがけて出版」されたもののようである。その後、版元の方で『歴史散歩』をシリーズ化して「全国」47都道府県分出すことになり(昭和47年以降)、昭和51年に神奈川県についてもシリーズに組み込むに際して全面的に改稿し、そして改題したということらしい。奥付の次に「全国歴史散歩シリーズ」の一覧が載っているが、うち「○印は既刊」となっているのは『神奈川県の歴史散歩』を含め、47都道府県中30*1で、『神奈川県』がシリーズに組み込まれるまでにかなり進行していた。いずれ昭和45年版『神奈川の歴史散歩』を見たら、その報告もしたい。
 ちなみに『鎌倉散歩24コース』も、「散歩コース」シリーズの他の26冊が刊行されたのが平成11年(1999)から平成18年(2006)で、1冊だけ平成5年(1993)と刊行時期が早い。どうも『神奈川の歴史散歩』が「全国歴史散歩シリーズ」に繋がった(らしい)ように、『鎌倉散歩24コース』が「散歩コース」シリーズに発展したということらしい。神奈川県の高校の歴史の先生も、なかなかやるものである。
 ところで、『鎌倉散歩24コース』の中里氏「あとがき」では「従来の類書とは違い,現場の高校の歴史の先生方が自分の足で歩き,調べ,……」ということが強調されているが、これは地域を「鎌倉」に限定しての言であろう。

*1:うち、13『東京都』と26『京都府』27『大阪府』28『兵庫県』29『奈良県』が上下2冊なので全52冊。