瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

神奈川県の案内書(02)

 昨日の記事で、神奈川県の高校の歴史の先生たちの団体「神奈川県高等学校教科研究会社会科部会歴史分科会」が出した鎌倉関連の本について、その変遷(の一端)を確認した。その最後で『鎌倉散歩24コース』の「従来の類書とは違い,現場の高校の歴史の先生方が自分の足で歩き,調べ,……」という記述に注意して置いたのだけれども、「鎌倉」に限らず、また「高校の」に限らなければ、教員の団体が著した「類書」というのは別に存在する。
 神奈川県歴史教育者協議会 編著『神奈川歴史散歩50コース*1』(一九七九年十月二十五日第一刷発行Ⓒ・一九八五年八月二十五日第五刷発行・定価1,200円・草土文化・287頁)四六判、縦書き。
 「かわさき(川崎)」(1〜46頁)が8題10コース、「よこはま(横浜)」(47〜101頁)が11題11コース、「みうら(三浦)」(103〜144頁)が7題8コース、「しょうなん(湘南)」(145〜198頁)が9題12コース、「せいしょう西湘)」(199〜238頁)が6題8コース、「けんおう(県央)」(239〜281頁)が8題8コースで、「その1/その2」と2コース紹介されている節が3つ、さらに西湘の「箱根越えの古道――足柄道と湯坂道と旧街道石畳道」(222〜223頁)は「その3」まであり、そして湘南の「鎌倉の切通しを歩く――北鎌倉と朝比奈方面」(148〜154頁)が2つ*2、「鎌倉の四季――花と年中行事」(155〜160頁)が《春》《夏》《秋》《冬》の4つに分かれているので、実は49題58コースである。
 歴史教育者協議会(歴教協)は、政治的には左の団体らしい。執筆者は43名で小学校教諭が22名、中学校教諭が10名、高等学校教諭が11名。昭和54年(1979)という刊行時期から見て、神奈川県高等学校教科研究会社会科歴史部会(現、社会科部会歴史分科会)による、昭和51年(1976)の『神奈川県の歴史散歩』への対抗意識があったようだ。
 そのことは、前付(xi頁)のi〜ii頁(残りは「目次」)「一九七九年十月」付の「はじめに」にも窺われる。i頁にも「資本の開発至上主義にようやく疑問が投ぜられ」などの文言も見えるが、ii頁の「類書」との違いを強調した箇所を引用して置こう。太字にした箇所は原文では傍点(ヽ)が附されていたが、再現できないので太字にした。

 昨今、歴史散歩はブームとなっており、さまざまな案内書も刊行されている。しかし、私たちは今までの類書とはちがって、次の諸点に力を入れて本書を編集した。
 第一は、ふるさとの歴史を民衆の視点に立って問いただすことを基本にした。著名な史跡や由緒ある古社仏閣にのみ目を向けるのではなく、“暮らしの歴史”とか“果物の歴史”などをとりあげて、地域の民衆が汗とともに築いてきた歴史の足どりをできるだけ探りだそうとしたのである。
 第二に、“近代工場発祥の地”とか“空襲による戦禍の跡”や“居すわる軍事基地”といったコースもとりあげて、現代の歴史にも迫ろうと試みた。
 第三に、県下の史跡をただ軒並みに訪ね歩くのではなく、一つの主題にそって散策できるようコースの設定に留意した。この書を片手に散歩された読者が、今後、その地域の歴史をさらに深く学習していく一つのきっかけが得られればと考えたからである。
 第四に、変貌の激しい地域だけに、現地取材を徹底して行い、できるだけ正確を期した。県下に組織をもつ教育研究団体という利点を生かし、地元の会員たちが、それぞれ調査、執筆に当たった。


 そんな訳で昭和51年(1976)版『神奈川県の歴史散歩』とは、分量が違う。本書は「はじめに」と各章の初めに各地区の概観を述べたところ、そして「学習を深めるための参考書案内」(282〜287頁)*3を除いて2段組、しかも1頁22行、1行27字でびっしり詰まっている。記述も細かい。『神奈川県の歴史散歩』の倍以上のボリュームがあるのではないか。そして「横浜空襲戦禍の跡――横浜駅東口から黄金町界隈まで」(96〜101頁)や「軍都横須賀を歩く――田浦方面から猿島まで」(140〜144頁)「津久井民衆、闘いの足跡――土平治一揆から城山ダム反対運動まで」(267〜272頁)「県央に居すわる軍事基地――大和から相模原へ」(277〜281頁)などという節もある。『神奈川県の歴史散歩』にはこのようなメッセージ性はない。しかし今となってはそれもこれも、昭和五十年代という時代の空気を伝えるものとして、なんだか懐かしい気がする。
 ちなみに『鎌倉散歩24コース』がテーマ別になっているのは、本書に対する反応であろうか。いや、関係ないか。
 私は、今は違うのだが、かつて神奈川県民だった時期があって、それで地理と当時の雰囲気が(子供ながら)分かっていることもあって、つい長くなってしまった。で「塩嘗地蔵」について触れるつもりだったのだが、次回に回す。

*1:表紙・背表紙(カバーも全く同じ)及び扉の題。奥付には「神奈川 歴史散歩/ ―50コース―」とある。

*2:詳細は後述(8月1日付)。

*3:『神奈川県の歴史散歩』を挙げていない。記述量からして「さらに学習を深める上で参考となる」(282頁)ものではないからであろうか。