瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

塩嘗地蔵(030)

 早い時期の文献を引こうと思っていたのだが、いざ集めるとなると、かつてそこら辺の図書館ですぐに見られたような本が書架に見当たらなくなっていたりして、いくらかは集まったがまだ、17年前に集めた分にも達していない。
 それにしても鎌倉に関する本は本当にたくさん出ているもので、図書館をハシゴすると何かしら見たことのない本に出くわす。そこでもうしばらく、その辺の図書館で集められる最近の文献の紹介を続けたい。
 「塩を嘗めた」伝説の発生源についての推測ももう述べて置いたが、それ以前の文献を引いてしまうともう続けられなくなりそうなので、江戸時代の文献はしばらく先送りすることにした。いずれ、参考資料とともにまとめて紹介することとしたい。

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 小澤彰『鎌倉歴史文学散歩』上巻(平成4年12月10日発行・定価1748円・有峰書店新社・225頁)四六判並製本
 下巻は未見。カバーのみカラー、カバー表紙に「大蔵/日蓮の里/由比/扇ケ谷」との副題が入る。カバー表紙の写真は茅葺き屋根の建物だがキャプションの上にバーコードが貼られているのでどこか分からない。カバー裏表紙は「釈迦堂切通し」。見返しに貼付して、帯が保存されている。帯の表の文(横書き)を引いて置こう。水色地に白抜き。まず副題があり、太線があって続いて以下の文がある。

歴史を秘めて、ひっそりと鎮まる鎌倉……その/史都鎌倉の全容を「あますところなく伝える最/も正確で詳しい案内書」と多くの方々からも絶賛/を浴び、修学旅行に最良のテキストとして折紙/つきの書。随所に著者の博識が光る。


 なぜ新刊本なのに「折紙つき」なのかというと、その下に少し小さなゴシック体でもう1行あって、

「鎌倉案内」改題・増補・新装版 定価1800円(本体1748円)

だからであった。帯の裏(縦書き)には「●主な項目」が列挙されている。帯の背は保存されていない。黄土色のやや厚い紙の「隠れ銀杏」のモノクロ写真の扉、アート紙のモノクロの口絵、表が「秋の八幡宮」で裏が「釈迦堂切通し」で、この3つの写真には若干の説明も附されている。
 中扉(1頁、頁付なし)に「鎌倉歴史文学散歩 上巻」とあり、2〜3頁に「平成四年十月」付の「はじめに」。その最後の段落を引いて置く。文体は以下全て敬体である。

 『鎌倉案内』の最初の序文を書きましたのが昭和五十九年八月、今回、『鎌倉歴史文学散/歩』として再び皆さまのお手もとに送ることになりました。また、新しく中安辰夫氏の写/真が巻頭言を飾りました。


 「巻頭言」とあるが、写真に何か本書全体に関わるようなメッセージが附されている訳ではないので、これは「巻頭」の誤りではないか。4〜12頁が「目次」で副題に示された4つの章(エリア)に分けられている。ただあまり一般的な呼称ではないので、その下の節を列挙して置こう。「大蔵」17〜58頁は●大蔵●二階堂●浄明寺●十二所、「日蓮の里」59〜112頁は●小町●大町●名越●材木座、「由比の里」113〜153頁は●由比●長谷●坂ノ下、「扇ケ谷」155〜211頁は●扇ケ谷●泉ケ谷●雪ノ下●鶯谷、にそれぞれ分かれる。それぞれの節の最初に、手書きの寺社史跡等を網羅した詳しい概念図がある。213〜225頁には「鎌倉の昔話」として、吾妻鏡御伽草子、寺院の縁起等から6題。13〜16頁は地図で、13頁(頁付なし)は上巻の収録範囲で、本来の鎌倉をカバーしていることが分かる。14〜15頁の見開きはハイキングコースの概念図。16頁(頁付なし)は上巻と下巻の収録範囲を示している。下巻は北鎌倉や大船・腰越など鎌倉市域と江の島(藤沢市)である。
 本文は2段組、1頁16行、1行22字。「光触寺」は「大蔵」のうち54頁上段2行め〜58頁「●十二所」に見える(56頁上段6行め〜57頁上段10行め)。55頁上段にある概念図「十二所」にも「卍光触寺」と雪だるまのようなマークに「塩嘗地蔵(振仮名シオナメジゾウ)」と見える。写真は56頁下段右に「光触寺本堂」のみ。22行の説明文のうち、前半は「花の下の連歌」の説明に費やされているが、本書は全体に文学関係の事項が充実している。「頬焼き阿弥陀」と「塩嘗地蔵」は最後の2つの段落。

 光触寺の本尊の阿弥陀如来は、通称を「頬焼き/阿弥陀」と云います。このことは寺宝の「頬焼阿/弥陀縁起」と無住国師の『沙石集』に同じ話が語/られています。その内容は、当時流行した阿弥陀/信仰の功徳を説いた身返り説話です。
 また山門を入った正面の地蔵さまを塩嘗地蔵と/いって商売繁栄の地蔵として町屋の人々の信仰を/あつめています。*1


 「頬焼き」という読みは他に見ないか。また「身返り」も「身代り」だろう。なお巻末の「鎌倉の昔話」の4話め(222頁上段11行め〜223頁下段12行め)は「ほお焼き阿弥陀」で、末尾に「――十二所 光触寺縁起――」とあって、『沙石集』ではなく『縁起』絵巻に従っている。
 下巻及び元版の『鎌倉案内』は未見、見る機会があれば追って記事にしたい。

*1:ルビ「しおなめ」。頬は本字。