瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

七人坊主(2)

 ここで、『怪奇探偵の実録事件ファイル2』から「七人坊主」の祟りの件を引用してみる。これは「M氏の話」ということになっているが、『本当にあったおばけの話⑩』の記述をもとにして、少し整理してある。

 昭和二十七年(一九五二年)のことだったという。八丈島の村境の峠で、道路工事がお/こなわれていた。当時はショベルカーもないので、ツルハシで土手を削っては、スコップ(以上21頁)で土砂をトラックに積み込む。そんな作業が十人の村人の手で続けられていたのだが、そ/のうちにふとしたことから、作業員たちの間で、七人坊主の伝説が話題になった。
〈このあたりで坊主の悪口を言うと、祟りがあるんだってね〉
〈ああ、ちょうどここいらで野垂れ死にしたっていう話だからな〉
 現にそこでは、車の事故などが多発しており、しかもそのすべてが、面白半分に坊主の/悪口を言ったとたん、事故が起きたというものだった。
〈でも、おれは偶然だと思うな。祟りなんてあるわけねえ。だいいち、この伝説はおかし/いんだ。村が飢饉で、食い物がなくて飢え死にしたのは坊主だけじゃねえんだから。なの/に呪いをかけるなんて、逆恨みもいいところじゃねえか〉
〈確かにそうだ。そんなクソ坊主に祟られるいわれはねえ……〉
 と言ったところで、作業員たちは、互いに顔を見合わせた。
 しばらくの沈黙があり、やがて、誰かが笑いだした。
〈いつのまにか坊主の悪口を言っちまったが、なんにも起こらねえや〉
〈そうだ、やっぱり迷信だ、クソ坊主のバカヤロウ!〉
 と言ってみんなで笑ったとたん、ものすごい地響きとともに土手が崩れた。作業員たち/は、逃げるひまもなく土砂に埋まり、島にサイレンの音が響きわたった。(以上22頁)
 
「……このときに、トラックの運転手が、危うく難を逃れているんです」
 電話の向こうで、M氏は話を続けた。
「その運転手は菊池さんという人ですが、作業員たちの会話を聞きながら、やはり笑って/いたそうです。本当に瞬間的な出来事だったらしいのですが、急に土手がふくらんだよう/に見えたかと思うと崩れ落ちたと。その証言を記録しているのが『ほんとうにあったおば/けの話10』という、これは偕成社から出ている本ですが、それによると、このときの事故/で一人が軽傷、一人が重傷を負い、あともう一人、人工呼吸を続けた結果、意識を回復し/た人がいる。つまり、死んだのは、ちょうど七人だったんです」


 前半の祟りの由来について述べた箇所は引用を省略するが、『ほんとうにあったおばけの話⑩』に載る菊池俊「七人ぼうずのたたり」では「江戸の時代」(92頁)のことで、「五千人の島の人のうち、千人は死んだという」(93頁)大飢饉とされている。だから「さかうらみ」(97頁)なのである。
 さて、「M氏」はこれを「菊池さんという」運転手の「証言」の「記録」と見なし、小池氏もそのように記述している。その理由の第一は、菊池氏の作品の、後半の初めに以下のようにあることだ(94〜95頁)。

 この話が、いまでも島につたわっていて、おれみたいに、のろいを信じている村/人が、おおぜいいるというのは、なぜだと思う?
 それは、いまから三十年まえにおきた、大きな事故が、みんなの頭から消えない(以上94頁。95頁上 挿絵)からだよ。
 おれは、そのとき二十五歳だった。そ/のときも、いまとおなじように、トラッ/クの運転手をしていたんだがね。


 そして、事故の発生直後の描写(98〜100頁)。

 悲鳴があがった。トラックが、ドスンドスンとしょうげきをうけて、ぐらぐらゆ/れた。あたりは、いちめん土ぼこりで、なにも見えやしない。おれは、むがむちゅ/うで、反対がわのドアから、そとへにげだしたさ。(以上98頁。99頁挿絵)
「たいへんだあ、うまっちまったぞお! はやくほりだせ、はやく! 人をよんで/こい!」
 道路のむこうで、測量をしていた親方と、測量技士が、さけびながら走ってきた。
 おれたち三人は、スコップをひっつかむと、むちゅうで、土の山に突進していっ/たよ。


 そして最後、『ほんとうにあったおばけの話』シリーズは話の出所を( )内に明示しているのだが、既に10月11日付「『ほんとうにあったおばけの話』(10)」に見たように、次のようにある(101頁)。

(わたしの体験をもとにして書いたものです)


 だから、「いまとおなじように」島で「トラックの運転手をしてい」る体験者=著者「菊池さん」の「証言」、と考えたらしいのだが、『ほんとうにあったおばけの話⑩』148頁「著者略歴」を見るに、

菊池 俊(きくち たかし)神奈川県鎌倉市在住。日本/児童文学者協会会員。『トビウオは木にとまった/か』『家出人が五人!?』など。

とあって、どうも違うみたいなのである。(以下続稿)