瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

七人坊主(6)

 浅沼良次編『八丈島の民話』で、他に東山(三原山)が出てくる話というのは、24番め(87〜89頁)の「七曜様」である。――「人形みたいにデイジケ(美しい)子供」を見た「ものしりで有名なアベノセイメイ」が、この子は若死にする、と言う。これを聞いた母親が寿命を延ばす方法はないか、と尋ねると「東山のテッペンに、七人の年よりがおじゃるから、その人たちに行ってたのみやれ」と言われる。そこで母が「さっそく東山のテッペンに出かけて行くと、そこにはアベノセイメイが教えたとおり、白いあごひげの年よりが、七人で輪になって、なにごとか話してい」る。そして寿命を延ばす方法を教わり、以来「旧の一月七日を七曜様といって」お供えをして拝むようになった、という話である。「七人の年より」が「七曜様」らしい。「原 話  三 根  浅 沼 ■ ユ(七九)」で、伝承地の三根は東山の北麓、ちょうど中之郷の反対側である。
 さて、予備知識なしにこの「七曜様」と「七人の坊さん」とを読んだら、同じ山のことを、北麓(三根)では神仙のいる山のように言い、南麓(中之郷)では不吉な場所のよう言っていることになる。そして「七人の坊さん」→「七曜様」という連想をする人も出てくるかも知れない。七人という人数の合致もしているし。
 いや、別に本気でこう考えているのではなくて、少しでも関連づけられそうなことを、念のため、机上の空論の気楽さから、無理からに結び付けてみただけなのだ。私はむしろ、前回少し考えてみた「七人の坊さん」に出てくる「東山」は東山(三原山)のことではないという考え、すなわち、小岩戸ヶ鼻に続く、東山林道(東山線)の走っている山並みのことを指していると解すべきか、との印象を強くしている。開設工事の当時は、小池氏が引く事故を報じる新聞記事にもあるように「潮間林道」という名称だった(『怪奇探偵の実録事件ファイル2』32〜33頁)。現在、この林道は東山林道(東山線)と呼ばれ、行き止まりで潮間海岸(汐間温泉のある辺りだろう)には通じていない。しかし、当初は『八丈島の民話』*1にも「東山を横断して潮間海岸に通じる林道工事」(115頁)とあったように、潮間まで抜ける計画だったのではないか。結局潮間までは開通せず、通じていないのに「潮間」の名を冠していては間違いも起こりかねないので「東山」に改称したのであろう*2。だとすると、やはりこの中之郷の集落の、東南東に位置する、小岩戸ヶ鼻に続く山並みが、この話の舞台である「東山」なのではないか。東山(三原山)は八丈島全体から眺めれば、東の山だけれども、中之郷から見れば北にある。そして、事故現場は中之郷の東にある山にある。中之郷の「東山」に。……勝手な推測だけれども。
 ところで、小池氏はなぜか「平根が浦」にだけ、執着しているのだ(24〜36頁)が、『八丈島の民話』の「七人の坊さん」の原文を見るに、実は他にも幾つか地名が出ている。まず、平根が浦に漂着した直後が、次のような地名由来譚になっている(113頁)。

 陸にあがった坊さんたちは、口が乾いていたので水をさがしましたが、見あたらないので、その中/の一人の坊さんがコミ*3を抜いて、地面を掘ると、コンコンと水がわき出しました。坊さんたちはそれ/をおいしそうに飲みました、これが今も流れている「コミノ川」です。


 村人に「魔術をつかうおっかなけ*4坊さん」と恐れられた坊さんたちは「東山から村へ通じる道路」を封鎖され「村へ下ることが出来」ず、「仕方がないので東山の頂上に住みつ」くのだ(114頁)が、

……、そのうちフドウの沢で一人死に、/六ッパが峠で二人死に、あとの四人はハテイの川で死んでしまいました。

ということになる。続いて前回の引用部分になるのだが、ここまでに出て来たコミノ川・フドウの沢・六ッパが峠・ハテイの川の地名についても、「東山の頂上」にあるはずの「七人の塚」についても、小池氏は何ら触れていない。(以下続稿)

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 なお、この「七人の坊さん」とほぼ同じ話が、岡林リョウのブログ「揺りかごから酒場まで☆少額微動隊」の「百鬼夜話第89夜、七人みさき*5に(参考:「東京ミステリーの旅」みき書房、中岡俊哉著S59)として紹介されている。中岡氏の著書はまだ見ていないが、どうも『八丈島の民話』から殆どそのまま採ったものらしい。

*1:【2021年12月13日追記】ここと次の書名が『八丈の民話』と誤っていたのを修正した。

*2:関東の鉄道(私鉄)では小湊鉄道上信電鉄のような例もあるが。その、小湊に達していない小湊鉄道に上総中野で接続する、いすみ鉄道になった国鉄木原線も更津〜大間だから「木原線」なのに木更津に達していなかった。木更津側はJR久留里線

*3:「コミを」の右傍に「(小柄)」とあり。

*4:「おっかなけ」の右傍に「(おそろしい)」とあり。

*5:2019年8月3日追記】岡林氏のサイトのアドレスが変わっていたので貼り直した。参考までにかつてのリンク先を示して置く。「岡林リョウのHP「幻想日記OKA-COMPLEX! neo/Ver.2」の「百鬼夜話第89夜、七人みさき」」。