瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

七人坊主(11)

 『八丈實記』は全7巻の活字本(緑地社)が出ているが、東京都都政史料館の原本とは編成を変えたりしている。その辺りの処理については、全7巻について別に整理するべきかと思うので、ここでは関連する箇所のみ見て置く。
 前回(昨日)見た、唐僧八人の話だが、まず活字本第一巻の一二四〜一二五頁に見えている。第三編「八丈名義 五村惣評」、中扉裏(六八頁、頁付なし)に「本編は都政史料館蔵原本の第六巻に相当するものである。」とある。「五村惣評/末吉村」の「泉川」の条。

    泉川
ハテイノ川、石積川、名古ノ川、テウナオヽカ川ハ 三十三流ノ集ル処ト云フ
園翁交語云、末吉村ニ父ト子ト同時ニ水ヲ呑[マ]ヌ池/アリ。古ヘヨリ父子一所ニ水ヲ呑トキハ鬼トナルト云。/又、カワノウ地ト云所ニハ、子ノ川トモ八僧ノ川トモ云【一二四頁下段】アリ。何ノ頃カ唐僧八人食ニツキ、山籠シテ死セシ其念/残テタヽリヲナシ、瀬戸物、鉄類、魚物ヲ貯ヘテ通行ス/レハ、イツカ手ヨリ失フコトアリ。其山ニ入レハ足腰ヲ/煩テ、一生涯治スコトナシ。此故ニ人多ク悩ムト云。末/吉村ノ産ニ孫十郎ト云者、八丈冨士山ニ登リ、久シク困/行シテ神仙ノ道ヲ得テ帰ル。彼八僧ノ死念ヲ円誠シテ祈/禱シ、其霊ヲ祭リシヅム。此者凡人ナラス、藁一本海上/ニ浮ヘ乗シト云。又村民ノ悪病ヲ煩フヲ祈念シテ癒ス。/其術神ノ如シ。……


 大間知氏の引いた巻三は、活字本第六巻の第六編「抜書二」で、中扉裏(二八二頁、頁付なし)に「本編は都政史料館蔵原本の/第三巻の全文に相当する。」とある。「八丈実記 大略」もしくは「八丈実記略」と題されている(二八五頁)。「抜書」すなわちダイジェスト。「○地理/○末吉村/○泉 川」。念のためこっちも抜いて置く。

   ○泉 川
ハテイノ川 石積川 名古ノ川 テウナオヽカ川ハ 三十三流集ル処ト云フ 園翁交語云、末吉村ニ父ト子ト同時ニ水ヲ/呑ヌ池アリ、古ヘヨリ一所ニ水ヲ呑トキハ鬼トナルト云/。又カワノウ地ト云所ニハ子ノ川トモ八僧ノ川トモ云ア/リ、何ノ頃カ唐僧八人食ニツキ山籠シテ死セシ其念残テ/タヽリヲナシ瀬戸物鉄類魚物ヲ貯ヘテ通行スレハイツカ/手ヨリ失フコトアリ、其山ニ入レハ足腰ヲ煩テ一生涯治/スコトナシ此故ニ人多ク悩ム、此村ニ孫十郎ト云者八丈/富士山ニ登リ久シク困行シテ神仙ノ道ヲ獲テ帰レリ彼八/僧ノ死念ヲ丹誠シテ祈リ其霊*1ヲシヅム、此者凡*2人ナラズ【三三二頁下段】藁一本海上ニ浮ベ乗シト云、又村民ノ悪病ヲ煩フヲ祈念/シテ愈ス神ノ如シ、……


 写本には誤写が付き物だし、さらに翻刻に際して誤読も生ずる。大間知氏の示した本文と、活字本の2箇所の本文と、少しだが違っている。そこで、活字本だけで済まされないから写本を見る必要を覚える訳だが、写本が読めない人が見ても仕方がない。だからやはり厳密な校訂がなされている活字本が望ましいのだが、大変な手間になるし、差し当たり読み易い形で提示してくれたことに感謝して、後は利用する人間が注意すべきなのだろう。
 さて、『八丈実記』を見るに、どうやらこの話は『園翁交語』からの引用らしい。この本については大間知氏の『八丈島―民俗と社會―』二六九〜二八四頁「古文献解題」に、享和二年(1802)序の写本一巻として、内容や著者について紹介されている。活字本はないらしいが、いずれ確認して置く必要があろうか。すぐには無理だが、いずれ機会を持ちたいと思う。

*1:活字本は「灵」の「火」が「大」になっている異体字

*2:活字本「凢」。