瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

新潮文庫『小泉八雲集』(5)

 一昨日からの続き。
 にあってでは削除されている注もある。

 二三三 山の者 洞光寺の山に住むためこの名があるが、死体を洗い、墓を掘ることを専門の業とする特殊階級。


 これは原注だがにはない。本文を参照するに、『知られぬ日本の面影』の「心中」という1篇(231〜238頁)で、該当箇所(233頁)には以下のようにある。

……二つの棺がいっしょに下ろされ、穴の底で共に接するように置かれる。すると、「山の者」たちが、二人のあいだを隔てている板を取りのぞき――二つの棺を一つにする。……


 ところがこれが、239頁では以下のようになっている。

……二つの棺*1がいっしょに下ろされ、穴の底で共に接するように置かれる。そのあと、二人のあいだを隔てている板を取りのぞき――二つの棺を一つにする。……


 ここは、他の人の翻訳も参照してみよう。
 差し当たり講談社学術文庫版「小泉八雲名作選集」の平川祐弘 編『神々の国の首都』(1990年11月10日第1刷発行・2000年8月21日第11刷発行・定価1100円・講談社・396頁)に収録された森亮(1911.6.7〜1994.3.19)訳「心中」(222〜230頁)を参照してみた。当該箇所は「一」節の最後の方、この本では225頁である。

……。二個の柩*2は並んで穴の底に下ろされ、柩は側面を触れ合って安置される。それから山の者と呼ばれる男たちが二人を隔てていた厚板を取り除いて二個の柩を一つにする。……


 この「心中」は、395頁に「本書の編集に当り、……「心中」……については、『小泉八雲作品集』全三巻(河出書房新社 昭和五十二年刊)に依拠しました。」とあるから、と同じ頃の訳ということであるが、こちらではそのまま訳して「原注」の存在に言及していない。
 では「山の者」の存在自体がなかったことになっているが、これでは改竄である。「原注」によって、これが「特殊階級」であることが強調されてしまうのだとすれば、講談社学術文庫版のように原文はそのまま訳して「原注」を敢えて訳さない、という行き方が、無難なのであろうか。(以下続稿)

*1:ルビ「ひつぎ」。

*2:ルビ「ひつぎ」。