瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

平井呈一『真夜中の檻』(17)

 さて、2月2日付(16)以来2ヶ月が経過し、いつの間にかエイプリル・フールも過ぎてしまった。それにしても、あんな下らぬ趣向を考えるくらい(しかも不発)なら、平井氏の「エイプリル・フール」について書いて置くべきだった。

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 さて、初刊本『真夜中の檻』に収録されていたのは「真夜中の檻」「エイプリル・フール」の小説2篇に江戸川乱歩「序」と中島河太郎「跋」のみで、第一、中菱一夫という筆名で発表しているので、海外の怪異小説・怪談についての解題やエッセイを多く収録して、平井呈一のものとしか読めなくなっている文庫版とは、だいぶ趣が違うものと見ないといけない。
 小説2篇のうち、「真夜中の檻」は狂人の子だとか異常な好色多淫の人だとか、人間でない美女だとか、そういうのが出てくるおぞましい作品だった。これを書名としているところからしても、平井氏の書きたかったのは「真夜中の檻」の方だった、と察せられるが、やはりこれだけでは偏っているように思えたのだろうか、配するに「エイプリル・フール」という、悪人*1が出て来ない小説を以てしている。ヒロイン津田江見子はもちろん、その夫陽之助は病弱な妻を深く愛しているし、快活な医学生の義弟英二、女学校以来の親友藤倉晨子と、主人公の周囲にいる人物は「真夜中の檻」とは打って変わって良い人ばかりで、そして江見子を愛したもう一人の男、原田仁四郎*2も、「まじめ」で「有能な」、「尊敬」すべき人物として描かれている。
 私がこの作品を読んだのは1月20日頃で、もう細かいところは忘れてしまったし、当時のメモもどこかに行ってしまったのだが、それなのに書いて置こうと思ったのは、たまたま図書館で手にした、「エイプリル・フール」について1章を宛てている山下武(1926.4.3〜2009.6.13)の『20世紀日本怪異文学誌 ドッペルゲンガー文学考―』(2003年9月5日初版発行・定価2500円・有楽出版社・391頁)を読んでいるからである。有楽出版社の出版物は2011年7月9日付2011年7月13日付で鎌倉のガイドブックを取り上げたことがあるが、ブルーガイド実業之日本社の関連会社で、これらの本も発売所は実業之日本社になっていたが、やはり本書も同様に「発売所 実業之日本社」で、カバーには「実業之日本社」の名前しか入っていない。
 

20世紀日本怪異文学誌―ドッペルゲンガー文学考

20世紀日本怪異文学誌―ドッペルゲンガー文学考

 これもまだ途中までしか読んでいないので、全体的なことはまた後日述べるとして、差し当たり必要な情報だけメモして置くと、四六判上製本、4頁(頁付なし)まで「目次」で5頁(頁付なし)中扉、7頁「はじめに」391頁「あとがき」それぞれ1頁ずつしかない。8〜390頁が本文で31の章に分かれている。「あとがき」に「「幻想文学」誌に三十一回にわたり連載した「ドッペルゲンガー文学考」が …… 一冊の本となった」とあり、裏が白紙で、その次に表「初出誌/「幻想文学」第37号('93年)〜67号('03年)連載」裏に編集部〈お断わり〉の1枚を挟んで奥付。奥付の裏は白紙。
 どうも、この雑誌連載をそのまま本にしたらしい。もちろん初出誌と比較しないと断定は出来ないが、初出誌をスキャンして厳密に校正しなかったためと思しき誤植が散見される。章の数も連載の数と一致しており、24番め、292〜303頁「岡本綺堂「離魂病」「百物語」」のところ、最後に(附記)として「百物語」の初出誌について、本文中の誤った推測を、本文に手を入れずに別に訂正しているところからしても、雑誌連載のまま、おそらく配列もそのままらしく思われるのである。初出誌は別の件で見たこともあるが、いずれ改めて見る機会を得たいと思う。
 それはともかく「平井呈一エイプリル・フール」」は8番め(95〜105頁)に取り上げられている。当時は文庫版『真夜中の檻』が出ていなかったから、かなり詳しい梗概の紹介(96〜100頁)がある。(以下続稿)

*1:というか、異常な遺伝的要素への不安を抱えた人物、というべきか。

*2:イニシャルが「N・H」なので「はらだ にしろう」と読むのだろう。