瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

夏目鏡子『漱石の思ひ出』(2)

 岩波書店から刊行されている単行本について。

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 『漱石の思ひ出』四六判上製本昭和4年(1929)に第一刷が刊行され、平成15年(2003)に至って改版された。
 私が見たのは第八刷(昭和四年十月十日印刷・昭和四年十月十五日第一刷發行・昭和十三年十二月五日第八刷發行・定價壹圓)と第一四刷改版(一九二九年一〇月一五日発行・二〇〇三年一〇月二四日第一四刷改版発行)である。
 装幀は布装で『漱石全集』と同じく石鼓文から取って、文字を白く抜いてその中に淡い黄緑を置き、文字以外は朱色。背表紙にのみ文字が入るが、上部に墨線で短冊型に仕切って、その中の白地に「漱石の思ひ出」、下部に石鼓文に被せて「夏目 鏡子述/松岡 讓筆録」と、墨書してある。初版と改版を比較するに、改版の文字は似せてはあるが同じでないことはすぐに分かる。
 見返しも『漱石全集』に同じ、「漱石の思ひ出/漱石年譜」と墨書の扉は同じ。初版では扉の次に保護用の硫酸紙があるが、改版にはない。口絵の1葉めは喪章を付けた写真、2葉めは「見合ひ寫眞」が右を上にして左に鏡子・右に漱石、3葉めは「森成氏送別記念寫眞」、全て表のみ印刷。初版では2葉め3葉めはアート紙に印刷されているが、改版では口絵は全て少し厚い紙に刷られており、初版に比べて陰影がぼやけている。次に「寫眞説明」で、改版はここを前付の1頁(頁付なし)と数えている。字配りも同じだが初版は正字歴史的仮名遣いだったのが改版は新字現代仮名遣いに改めている。この表記の改変は本文も同じ。裏は白紙。「目次」は初版では頁付一〜六があり1頁13行、改版では頁付三〜七(七の裏は白紙)で1頁14行。目次の最後、初版では「漱 石 年 譜」と「編録者の言葉」をそれぞれ1行空けて、ここまでの章番号と同じ高さで入れ、そして下へ章題の下と同じく「………………」を伸ばすがこれを最下部まで続けて頁数を入れていない。改版は章番号を抜いた章題と同じ高さから「漱石年譜  413」「編録者の言葉  427」としている。各章の処理は同じだが、初版では漢数字だった頁数が改版では算用数字に変わっている。
 中扉「漱石の思ひ出」は、改版も初版の影印である。ここが一頁(頁付なし)で、三頁から本文、ゴシック体の漢数字で頁付があるのは共通。本文は初版は1頁17行、1行47字。改版は1頁16行、1行47字。初版は総ルビ、改版は現在漢字で表記しないものにつきルビを残している。
 初版は三八五頁まで。改版は四一二頁まで。末尾に(昭和三年十月九日)とある。
 初版はその裏が白紙で、次に中扉「漱石年譜」でこれは本文とは別に頁付がある。裏は白紙、次の三頁から頁付があり、まず2段抜きで改めて「漱石年譜」とあり、以下2段組で一四頁まで。改版には中扉はなく四一三〜四二五頁。初版1段21行、改版1段20行、ともに1行25字で、ほぼ同じ字配りで組もうとしている。
 初版は「編録者の言葉」にも中扉があり、頁付はその本文三〜八頁、最後に「昭和四年十月上浣/松 岡 讓 識」とある。改版は中扉はなく四二七〜四三二頁。
 奥付の形式は全く異なる。改版には奥付の裏から3頁、漱石関連本の目録があるが、初版本にはない。
 なお、この岩波書店版より以前に、改造社版があり、さらに雑誌「改造」連載や、この初出誌からの「漱石全集月報」への抄録など、いろいろあったのだが、見る機会があればメモすることにして、今は岩波版の初版・改版の違いを記述して置く。