瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

山下武『20世紀日本怪異文学誌』(03)

 本書については、以下、順を追って瑣事を挙げて行くつもりだけれども、十分整理し切れている訳ではなく、後回しにした事項も少なくない。いづれ前後することとなると思うので、章題の作者・作品名を一々挙げることはしないで置く。改めて、初出誌と対照する機会があれば、そのときに果たすこととしたい。

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・70頁3行め、「まるで私自信こそ贋物であるかのやうに」の「私自信」は「私自身」の入力ミス+校正漏れ。
・80頁7行め「末曾有の戦争」の「末曾有」は85頁11行めの如く「未曾有」。
・85頁4〜6行め、

……。新聞広告を読んだ速水女史は、珠枝に生き写しの曲馬団の蛇使いの女を双/生児の妹静枝と偽って引き合わせ、若くして未亡人となった静枝の資産を乗っ取ろうとの肚なのであ/った。むろん、そのためには珠枝をも毒殺するつもりだったにちがいない。*1

とあるが、自分の双生児のことを尋ね人の新聞広告に出したのは珠枝で、静枝は贋物なのだから「静枝の資産」は「珠枝の資産」でないとおかしい。
・89頁12行め、主人公・語り手の浅倉泰蔵が「パリでの興業に失敗して」とあるが、11行めにあるように「世界を股に掛けた興行師」なのだから「興業」ではなく「興行」である。
・94頁1〜3行め、

……。もしもスー/ザが飛行船から砂漠に身を投げず、どこかの陋屋で孤独な死を選んだとしよう。その場合、腐敗が進/行する彼女の腹部の中で山猫*2の膀胱*3袋に包まれた夫オーマーの脳髄の恐怖はいかばかりか……。

と、山下氏は香山滋「月ぞ悪魔」に別の展開を想定している。オーマー云々は91頁15行め〜92頁5行めに説明されている。すなわち、妖婆ムンクの残忍な外科手術によりヒロインのスーザは腹部に、夫オーマーの眼・口・鼻を移植され、「一身二体の化物」にされていた。夫の脳髄は山猫の膀胱袋に包んで彼女の腸に嵌め込まれていたのだった。
 しかしながら、この山下氏の想定は成り立たない。なぜならスーザが自殺したとき、既に「オーマーの顔と脳は腐敗が進行し、すでに屍毒が彼女を侵しはじめていた」(93頁1行め)のであって、「恐怖」を感じるはずもない。オーマーの死因は「圧死」だが(93頁1行め)、その原因はヒロインに恋した浅倉泰蔵が、ヒロインの裸身を垣間見て、たまらずに彼女を押し倒したことにあった(91頁6〜14行め)。
 ヒロインも実は浅倉を深く愛していたが故に「醜い現実の肉体」を愛する男に知られることなく地球上から消し去る必要があった(92頁6行め〜93頁3行め)、だから、いづれ浅倉から離れて(オーマーが死んでいなくても)自殺するつもりだった、と山下氏は想定している訳なのだけれども。――ここは編集者が一応突っ込んで置くべきだったのではないか。(以下続稿)

*1:ルビ「はやみ・はら」。

*2:ルビ「リンクス」。

*3:ルビ「ブラツダー」。