瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

水村美苗『続明暗』の文庫本(1)

 絶版になった新潮文庫5157を見たのでメモして置く。その後刊行されたちくま文庫版の書影は5月24日付「夏目漱石『明暗』の文庫本(4)」に貼り付けて置いた。
・平成五年十月二十五日発行(381頁)
・平成九年十二月十五日二刷・定価552円
・平成十六年八月二十日三刷・定価552円
 私が見たのは二刷と三刷である。四刷は出なかったようだ。
 カバー、表紙は同じ。カバー表紙折返し、上部に「水村美苗/Mizumura Minae」とあって二刷は両手で頬杖を突き明るい表情で髪の毛がキノコのように広がった写真、三刷は髪の毛をまとめて左手で頬杖を突いた暗い表情の写真、ともに黒っぽい服。その下の紹介文は二刷は10行(1行16字)、三刷は8行。異同を挙げると「仏文科卒業」→「仏文学専攻」*1、「修了後、帰国。のち、」→「博士後期課程修了。」、「1990年、『続明暗』を刊行し芸術選奨新人賞を、'95年には本書『私小説 from left to right』で野間文芸新人賞を受賞。また、'98年、朝日新聞に連載された辻邦生氏との往復書簡『手紙、栞を添えて』を刊行。」→「著書に『続明暗』(芸術選奨新人賞)、『私小説 from left to right』(野間文芸新人賞)、『手紙、栞を添えて』、『本格小説』(読売文学賞)。」となっていて、二刷で「本書『私小説 from left to right』で」というのが分からない。野間文芸新人賞は平成7年(1995)第17回を受賞しているが、講談社HPの「野間文芸新人賞 (過去の受賞者一覧)」によると、受賞作はもちろん本書『続明暗』ではなくて、やはり『私小説』なのである。

私小説 from left to right (新潮文庫)

私小説 from left to right (新潮文庫)

私小説―from left to right (ちくま文庫)

私小説―from left to right (ちくま文庫)

 すなわち、私の見た二刷のカバーは、平成9年(1997)12月の二刷増刷時のものではなく、平成10年(1998)刊の『手紙、栞を添えて』のことが書いてあるから、それよりも後、かつ「本書」とされている新潮文庫私小説』刊行後であろう。
手紙、栞を添えて

手紙、栞を添えて

手紙、栞を添えて (朝日文庫)

手紙、栞を添えて (朝日文庫)

手紙、栞を添えて (ちくま文庫)

手紙、栞を添えて (ちくま文庫)

 してみると、私の見た二刷カバーは、平成10年(1998)9月に新潮文庫私小説』用に準備した著者の紹介文を、本書『続明暗』のカバーにも流用するに際して、うっかり「本書『私小説 from left to right』」をそのままにしてしまったものであろう。(以下続稿)

*1:12月24日追記】「卒業」と「専攻」を補う。