瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

松本清張「氷雨」(4)

 9月13日付(3)の続き。
 昭和34年(1959)11月27日にNHKで放映された「氷雨」は、松本清張の短篇小説「氷雨」に類似しない。これに対して9月10日付(2)の最後に挙げた、昭和36年(1961)5月22日にTBSで放送された「氷雨」は、テレビドラマデータベースに載る「主な出演 風見 章子、野川 美子、桜 緋紗子、旭  輝子、広岡三栄子、深見 泰三」を見るに、短篇小説「氷雨」の設定に合致するように思われる。
 映像が残っているのかどうか、放送されたのが51年前だから当時見た人は今60代以上、仮に記憶していたとしても細かい話まで覚えていないだろう。出演者のうち、風見章子・桜緋紗子・旭輝子はWikipediaに立項されている。健在なのは風見氏のみで現役女優*1。桜氏は尼僧になり、旭氏は神田正輝の母。そこでキャストにつき、生没年の(ネット上では)はっきりしない人たちを主に、確認して置きたい。
 風見章子(1921.7.23生)が短編小説「氷雨」の主人公、渋谷の割烹料理屋“ささ雪”の女中・加代だったのであろう。加代は光文社文庫『誤差(松本清張短編全集09)』50頁に「女も三十を三つも四つも過ぎると」とあるが、風見氏は放送当時39歳。「三」章・55頁「子供を二度ばかり産んだ経験のある加代」に見えたかどうかは分からないが、戦中戦後のスター女優で「上背があり、胴が細く、着つけの上手も手伝って、すらりとしていい姿格好だった」という風に見えたのだろう。
 野川美子は「東宝 映画データベース」及び「Movie Walker」によると昭和34年(1959)7月28日公開の板谷紀之監督「女子大学生 私は勝負する」と昭和36年(1961)9月5日公開の田中絹代監督「女ばかりの夜」(東京映画製作・東宝配給)の2本に出演している。またテレビドラマデータベースによると昭和35年(1960)から昭和36年(1961)までのTVドラマに出演している。活動期間が極限られているが、映画では女子大生役をやっていたらしく、20代前半だったようだ。なお、「東宝 映画データベース」には「コメット・スターズ 文学座演技研究所第4期生」とある。しかしながら「文学座演技研究所」はネットではヒットしない。文学座附属演劇研究所というのがあるが、これは昭和36年(1961)開設で、第4期生となると昭和39年(1964)入所ということになり、合わないようだ。
 コメット・スターズについては、せんきちのブログ「まぜるなきけん」の2009年5月6日「女子大学生 私は勝負する」及び、賀津新太郎のHP「電脳旋風児 映画が俺を呼んでるぜ」の「嵐を呼ぶ掲示板」の賀津新太郎(管理人)による2012年5月24日投稿「6404.女子大学生 私は勝負する」に、同じような説明が見えている。
 さて、TV出演作のうち「ナショナルキッド」については、MUSASHI-Sakai(1955.12生)のブログ「MUSASHI's Nostalgic Museum 1960年代のテレビ・ナショナルキッド・野球メダル」の2008年5月24日「ナショナルキッド」に、第一部「インカ族の来襲」にインカ金星人隊長アウラとして、第三部「地底魔城」と第四部「謎の宇宙少年」に地底人幹部アンナとして出演していたときの、グッズや写真が紹介されている。
 これを見ると丸顔でぽっちゃりしており、そして悪役だから挑みかかるような目付きをしている。MUSASHI-Sakai氏は「堂々とした話し振りが印象的」と述べている。
 この野川氏だが、短篇小説「氷雨」では、加代が自分の客の川崎を奪われるのではないかと思って張り合うライバル女中の初枝を演じたのだろうと思われる。というか、初枝以外に野川氏の役はない。すなわち、「一」章・44頁に「年齢は二十三というが、じっさいはもっと上らしい。」とあるが、これは当時20代前半だったらしい野川氏に合致する。さらに容姿についてだが、45頁「鼻が少し低いのを除けば、色は白いし、眼もきれいである。もっとも、その眼をことさらに色っぽくどの客にも見せるので、……」とあり、以下「新参のくせに腰が重い」だの「妙になれなれしいところがあって」だの「客席でも妙に無遠慮」などの、日頃の態度が描写され*2、「三」章・55頁「エプロンをたくらせた初枝の二の腕近くの皮膚のむっちりした太り具合や、色の白さ」や、昼の「一時に仕込みの用事が終わって」入った「風呂」で、主人公加代が観察した「初枝の身体」は「いい肉づきをしていて、胴のくくりの下がふくれている。肩も、胸も、腹も、腿も内側から外に押し出るように張って、白い皮膚だけに、女でもなかなか見ごたえがあった。」しかし着物を着ると「初枝は胴も太く、足も短い。着物の着かたでも野暮ったくて垢ぬけがしなかった。」ということで「自信のようなもの」を感じるのだが、深夜にはまた、57頁「昼間見た相手の若い白豚のような身体」を思い出すのであった。
 この辺り、参考になりそうなブログをもう1つ挙げて置く。ajski99のブログ「Villainess テレビ、映画の悪女フェチブログ」の記念すべき(?)1人めが、2006年10月19日「アウラ (ナショナル・キッド)」である*3。その中に「幼いころに見た時のアウラの印象は、スレンダーなクールビューティだったが、その後ビデオが出て確認すると、当時の典型的な日本人体型だった。*4」と述べてあり、他にも「ちょっと太めの足」だの「思ったより丸顔」だのというビデオでの印象が記されている。(以下続稿)

*1:2016年4月20日追記】東京本社版「朝日新聞」46661号、2016年(平成28年)4月12日付(40頁)の20面(12版▲)「暮らし発見」と題する広告頁の、4段3列中の3段め中列にある、放映新社の広告「もう一度夢を追いかけてみませんか?(候補生)/テレビCM ミドル・シニアタレント出演者大募集!」に「女優 風見章子(当社所属)」の、元気そうなカラー写真が掲載されていた。

*2:他にも「二」章・46頁に「色っぽい瞳の据わり方」、47頁「気おくれしない表情」など。

*3:記事の下の方にオッパイ丸出しの広告が貼付されているので閲覧注意。

*4:原文「体系」を「体型」に訂正。