瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

松本清張「氷雨」(11)

 この短篇「氷雨」については藤井淑禎の研究論文がある。だから、私は特に読解のようなことはやらない。
 これはまず、北九州市立松本清張記念館の「松本清張研究」創刊号(二〇〇〇年三月三十一日発行・定価1429円・173頁)96〜107頁に「「氷雨――男と女/手練手管の玄人芸の終焉」と題して掲載され、その後、藤井淑禎『清張 闘う作家――「文学」を超えて―― (MINERVA歴史・文化ライブラリー⑩)』(2007年6月30日初版第1刷発行・定価3,000円・ミネルヴァ書房・264頁*1)に、6〜9章を収める103〜226頁「III 清張ミステリーの多彩な実践」に、123頁〜143頁5行め「7章 「氷雨」とその時代――売春防止法前後――」と改題して再録されている。
 単行本にはほぼ初出のまま収録されている。以下、異同を挙げて置く。
 初出では章分けを5字下げ2行取りの「*」で示していたが、単行本ではこれを11字下げ2行取りの太い明朝体の算用数字の章番号に改めている。まず冒頭、初出はいきなり始まっていたのが単行本では123頁3行め「1」、以下挙げていくと「2」125頁9行め(初出97頁上段21行め)、「3」129頁7行め(初出99頁下段9行め)、「4」131頁5行め(初出100頁下段13行め)、「5」133頁14行め(初出102頁上段9行め)、「6」135頁11行め(初出103頁上段12行め)、「7」137頁12行め(初出104頁上段19行め)、「8」141頁9行め(初出107頁上段1行め)。
 初出には若干振仮名があったが単行本にはない。これは残して置いた方が良かったと思う。
 段落の頭が鍵括弧で始まっている場合、初出では1字下げしていないが、単行本では1字下げにしている。
 126頁3行めで段落を改めているが、初出97頁下段14行めでは改めていない。
 127頁9行め「元気なく「部屋の中を見まわし」、」初出98頁下段4〜5行め「元気な/く「部屋の中を見まわ」し、」。
 128頁以降、藤井氏はこの小説の解釈について、川崎の本命が誰かで①=初枝・②=加代、さらに川崎の初枝に対する態度(a)=加代の疑心暗鬼・(b)=そうとう初枝を意識、という「二つの「二通り」の組み合わせ」を「①(a)」の如くに示す。(a)は横に並べて1字分。ところが、初出では「①(a)」の如く、3字分使っていたのである。
 131頁13〜14行め「というのが一般的だ。この/作品の場合で言えば」の初出101頁上段6行めでは「この作品」から段落を改めていた。
 132頁6行め「藪のなか」は、初出101頁上段19行め「藪の中」であった。但し131頁13行めは「藪の中」でここは初出101頁上段4行めももちろん「藪の中」である。
 132頁9〜13行め=初出101頁下段1〜7行め、前後1行ずつ空けて、最終章の加代と客の会話を、台本のような形式に改めて引用している。初出では「客」を2字下げ、「加代」を1字下げにして鍵括弧の始まりの高さを揃えており、台詞の2〜3行め(101頁2・4〜5行め)は4字下げになっている。これが単行本では「客」と「加代」を2字下げにして鍵括弧の初めの位置を揃えていない。台詞の2行め(132頁11行め)は4字下げ。他の引用箇所はいずれも2字下げ。
 136頁1行め「取り寄せていたが(仕出し)、」初出103頁上段20〜21行め「取り/寄せ(仕出し)ていたが、」。
 137頁2行め「グループのなかに」初出104頁上段4行め「グループの中に」。
 138頁1〜2行め「『朝日新聞一〇〇年の記事にみる/③東京百歳』」初出104頁下段6行め「『朝日新聞一〇〇年の記事にみる ③東京百歳』」書名中にあった空白が消えている。
 138頁7行め「十ヶ月」初出104頁下段15行め「十ヵ月」。
 初出105頁上段は3行しかなく、残りは「穂積和夫・画」の料理店の女中の絵になっている。これは単行本には再録されていない。
 140頁3〜4行め(初枝が移ってきたのも、最終章が昭和三十三年四月とすればその二/年前だ)は初出106頁上段11行め(初枝が移ってきたのも最終章を基点にすれば二年前だ)を分かりやすく改めている。「昭和三十三年四月」はこの小説が発表された時点。
 140頁6行め「巻正平著『姦通のモラル―一夫一婦と結婚外恋愛』(昭34)」初出106頁上段15〜16行め「巻正平著『姦通のモラル――一夫一婦と結婚外恋愛』(昭34)」。
 初出には末尾(107頁下段)に(ふじい ひでただ・立教大学教授)とある。さらに108頁にキャプション「上は、昭和26年の岩動景爾『東京風物名物誌』に掲載された、渋谷の商店広告と/地図。左は、同じ年刊行の木村毅編『東京案内記』(表紙)。」とあって、住宅地図風の渋谷駅西口「(道玄坂)上通三丁目」附近の略図に、藤井氏が本文中に引いている木村氏の編著の表紙を示す。これらも単行本には再録されていない。(以下続稿)

*1:2013年9月29日追記】初版第2刷を見た。奥付の初版第1刷の発行日の次に「2007年8月10日 初版第2刷発行」の1行が追加されているのみで、奥付の裏の目録やカバーも一致。本体は細かく見れば修正等あるかも知れぬが未点検。