瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

小池壮彦『怪談 FINAL EDITION』(7)

 一昨日からの続きで、第十話「侑子」について。
 ホテルでのユウコの体験は、『幽霊物件案内』と『怪談』はほぼ同じであるが、細かいところが違う。すなわち、ユウコが彼氏とこのホテルの2階の部屋に入ったというのは同じ。『幽霊物件案内』は11頁7行め「休んだ」とあるが『怪談』は休憩か宿泊かはっきりさせていない。『幽霊物件案内』では11頁7〜8行め「冷蔵庫が壊れているのを除けば、普通の部/屋だった。」とするが、『怪談』の冒頭31頁2〜3行めは「そのホテルの二階の部屋は、空調も冷蔵庫も壊れていた。窓もないのに生ぬるい風が流れてき/て顔をなでた。……」と、空気がおかしかったことになっている。彼氏が『幽霊物件案内』11頁8行め「コーラ」・『怪談』31頁3行め「飲み物」を頼もうとフロントに電話をしたが出ないので、『幽霊物件案内』11頁8行め「文句」・『怪談』31頁3行め「苦情」を言いに1階に行っている間、ベッドで煙草を吸っていたユウコは、頬に『幽霊物件案内』11頁10行め「軽い痛み」・『怪談』32頁5行め「痛み」を感じてこするとぬるぬるしているのでバスルームに行って鏡を見ると、『幽霊物件案内』32頁11行め「黒い顔の女が映ったかと思うと、すぐに消えた。」・『怪談』31頁5〜6行め「焼け爛れ/た女の顔が映って消えた。」――「黒い顔」と「焼け爛れた」ではかなり印象が異なる。いつのまにか彼氏が後ろにいて茫然と鏡を見ており「なんだか変だから帰ろう」と『幽霊物件案内』11頁13行め「言った。」か、『怪談』31頁7行め「つぶやいた。」か、したのは同じ。
 その後、彼氏とは続かなくなるのだが、『幽霊物件案内』11頁14〜15行め「以来、鏡を見るのが怖くなったユウコは、ささいなことで彼とけんかし、別れてしまった。すべて/あのホテルの祟りだろう、と彼女は屈託なく自分の体験を語った。」ということで、この時点で小池氏はユウコに直接取材したことになっている。『怪談』の方は31頁8〜行め「顔に浮き出たシミを気にして、侑子は家にこもりがちになった。彼とはすれ違いが多くなり、自然に会わなくなった。」と、自然消滅したことになっている。
 四谷怪談には、彼氏は登場しない。160頁13〜16行め、

 泊まった部屋で彼女が鏡を見ると、黒焦げの顔が映った。人とも動物ともつかない黒いもの/がベッドの付近を這っていて、あまりの恐怖にチェックアウトしたという。
 わりと屈託なくそんな話をしていたが、以前火事で焼けたホテルらしいというあたりの話題/では口ごもり、何か語りづらい事情も絡んでいるようだった。


 鏡の怪異は「黒焦げの顔」でまた微妙に異なるが、『幽霊物件案内』『怪談』に見えない後段は、まさにホラーである。しかし、『幽霊物件案内』『怪談』とは別のユウコが、同じ時期に渋谷円山町の火事のあったホテルに泊まって、……ということもあるまいから、同じユウコだと思うのだけれども、なんでこんなに違うのか、どうも良く分からない。(以下続稿)