瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

小池壮彦『怪談 FINAL EDITION』(8)

 第十話「侑子」の続き。
 『幽霊物件案内』では11頁16〜17行め「彼女のことを再び思い出したのは、平成九年に渋/谷のアパートで、東京電力のOLが殺される事件があったとき」のことで、それは12頁3〜4行め「謎に満ちているOL殺しが、ユウコの話の後日談として、位置づけ/られはしないかと思った」からである。そこで5〜6行め「知人に連絡を取ったとこ/ろ、「あの子はもうだめだろう」という返事で」ユウコの後日談を聞くのである。11頁7〜9行め、

 鏡にまたあれが映ったと言って、様子がおかしくなり、ユウコは会社をやめたという。顔に浮き出/たしみのようなものを気にして、いっさい人に会わなくなった。その後に訪ねた人の話によれば、以/前の面影はなく、骨と皮ばかりの身体になっていた。


 この辺りの描写が『怪談』では細かくなっている。シミのことは6月21日付(7)で見たが、完全な引きこもりになる以前、まだ出社して彼氏とも続いている頃のこととして扱われている。31頁9〜10行め「久しぶりに会社に出てきても、侑子は額に爪を立てながら「またあれが/映った」とひとりごとを言っている。」という状態で、ここで小池氏にユウコを紹介した知人「同僚の水野という男」が「心配して話し相手になっていた」という形で登場する。しかし11行め「やがて侑子は会社を辞め」てしまう。
 そして『幽霊物件案内』の「その後に訪ねた人の話」というのも、12行め「数ヵ月後、水野は侑子のアパートを訪ねてみた」ということで、知人本人が訪ねたことになっている。この辺りの描写(12〜15行め)も細かくなっている。ここは引用を省略する。
 このようにユウコの後日談を先に書いてしまって、それから、32頁2〜3行め「水野からその話を聞いたのは、私が侑子からホテルでの体験談を聞いてから、一年ほどがすぎた/頃だった。渋谷で東京電力のOLが殺される事件があり、その余波がまだ残っていた時期」のことで、まず4〜5行め「侑子の会社に/連絡」して「もう辞めた」と聞き、知人から6行め「あれから起きた出来事」を聞く――という風に、小池氏側の事情と動きが説明されるのだが、驚くべきことに知人から後日談を聞いた直後に、小池氏は6行め「迷った末に、侑子のもとを訪ねてみた。」という展開になるのである。
 『幽霊物件案内』にはそんなことは書いていなかったし、後述するように『四谷怪談』とは全く食い違っている。
 それはともかく、『怪談』では小池氏はユウコに再会し、7行め「話しぶり」は「変わらない」もののすっかり「面立ちの変貌」したユウコが、8行め「すべてはあのホテルから始まったの」とつぶやくのを聞いている。それ以外に、どの程度直接取材出来たのかは、説明されていない。
 この後、6月20日付(6)に引用した、ユウコに接触するきっかけとなったホテル火災のこと(32頁10〜12行め)、そして最後の段落(32頁13〜16行め)に、ユウコの容姿が「拒食症だったらし」い東電OLと対比され、そして6月19日付(5)の最後に引用した、ユウコの現在が語られている。

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 『幽霊物件案内』の最後の2行(11頁10〜11行め)は、この話の題「あの話はしない方が……」のもとになった「だから、あの子の話は本に書かない方がいいのでは」という知人の発言と、それに対する小池氏の判断が書かれている。(以下続稿)