瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

伊藤左千夫『野菊の墓』(5)

・角川文庫1227(3)
 さて、【240頁】【246頁】の諸版に示されるように、【199頁】初版(昭和四十一年三月二十日初版発行)は八版(昭和四十二年十月二十日八版発行)を最後に増刷を止め、その後、昭和43年(1968)に【240頁】に改版されたようだ。初版発行の翌年の昭和42年(1967)に増刷を止めた理由は、新潮文庫などでも丁度この頃行われていた新字現代仮名遣いへの組み直しのためであって、【199頁】は「水害雜録」の「雜」の字に示したように本字歴史的仮名遣いであった。尤もこのブログでは「雜」のように普通に表示されるものはそのままにしているけれども、「害」や「録」など原本通り本字で示すと文字化けしそうなものは新字で代用している。誠に中途半端な示し方ではあるのだけれども。
 【199頁】189〜199頁「解 説」は小説の題と同じく1字下げ、右に1行分、左に2行分空白。これに該当するのは【240頁】203頁7行め〜214頁10行め、「解説」として4篇並ぶうちの3番めで、1行分空白、2行取り3字下げで「作品解説」と題し、下寄せで「土 屋 文 明」そして1行分空けて本文。【246頁】224頁4行め〜236頁も同様。【199頁】と【240頁】の冒頭の1行を比較してみる。

【199頁】189頁2行め
 一 「野菊の墓」は明治三十九年一月のホトトギスに掲載されたものであり、間もなくその年/
【240頁】203頁9行め
 一 『野菊の墓』は明治三十九年一月の「ホトトギス」に掲載されたものであり、間もなくそ/


 以下も同様に小説の標題は『 』に改められ、短歌の連作名その他は「 」のまま、誌名は「 」が新たに附されている。以下、それぞれの位置を示しておくと【199頁】192頁6行め「 二 「奈々子」は‥‥」、194頁2行め「 三 「水害雜録」は‥‥」、195頁1行め「 四 「隣の嫁」は‥‥」とあってここだけ数字の前後が詰まっている。197頁16行め「 五 「春の潮」は、‥‥」。199頁10行めまで本文、11行め2字下げで「昭和三十年七月二十八日」12行め下寄せで「土 屋 文 明」とある。【240頁】もやはりそれぞれの作品毎に「 一 『野菊の墓』は‥‥」と番号を打って書き出しているが、206頁16行め*1「 二 『奈々子』は‥‥」、208頁15行め*2「 三 『水害雑録』は‥‥」、209頁15行め*3「 四 『隣の嫁』は‥‥」、212頁16行め「 五 『春の潮』は、‥‥」、最後の行の下詰めに小さく「(昭和三十年七月二十八日)」とある。【246頁】は作品ごとに数字を打つのを止めている。228頁3行めに7字下げで「*」を打って、次の行から『奈々子』、同様にして「*」で切れ目を示して、230頁5行め『水害雑録』、231頁10行め『隣の嫁』、234頁14行め『春の潮』、最後、236頁13行めまで本文で1行空けて14行め、2字下げで「昭和三十年七月二十八日」とある。
 なお、【199頁】では短歌連作を引用した前後に空白行を作らず詰めていたが、【240頁】では1行ずつ空けている。
 ところで、この土屋氏の「解説」改め「作品解説」が昭和30年(1955)のものであることが注意される。すなわちその頃、昭和30年(1955)に「野菊の墓」と他二篇「奈々子」「水害雜録」を1冊にして刊行、さらに昭和31年(1956)に『隣の嫁・春の潮』が刊行されていた。これを昭和41年(1966)に抱き合わせたのが本書、角川文庫1227『野菊の墓・隣の嫁』なのである。
 2012年1月14日付「中島敦の文庫本(03)」で注意した角川文庫294『李陵・山月記名人伝』は、昭和43年(1968)の改版で、昭和27年(1952)初版の角川文庫294『李陵・弟子・名人傳』に新たに3篇を追加し書名も改めながら番号はそのまま引き継いでいるが、本書は2冊を抱き合わせるに際して、従来のどちらかの番号を引き継ぐことをせず、新たな番号を打ち直している。
 それはともかく「解説」の「昭和三十年七月二十八日」という日付は『野菊の墓 他二篇』のものであろうが、ネットで検索した限りでは確認出来なかった。よって、かれこれ確認のためにいづれ抱き合わせる以前の2冊と照合する機会を持ちたい。2冊を抱き合わせたものと思って【199頁】を見直すと、それぞれの版をそのまま流用したらしい小説本文には違和感はないが、もともと2冊別々だったはずのものを組み合せた「解説」には、切貼りのような痕跡が確かに認められるのである。ここに指摘しても良いが、もとになった2冊と照合すれば下手な憶測を示さずとも明確であろうから、やはり詳細は後日に譲る。何時になるか分からないが。(以下続稿)

*1:この頁短歌連作引用の前後2行空白があり16行めが最終行。

*2:この頁短歌連作引用の後1行空白あり。

*3:この頁短歌連作引用の前後2行空白あり。