瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

鬼島さん(2)

 10月6日付(1)の続き。
 私自身はこの種の話を、聞いたような気もするけれども、記憶していない。
 それはともかく、昭和50年代前半、話者の記憶違いで時期が若干ズレるとしても小学校卒業が昭和55年(1980)3月だから、昭和50年代前半の話である。これが、類話の中でどのような位置を占めるのか、気が付いた文献を挙げながら検討して見よう。

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・ナイトメア叢書①『ホラー・ジャパネスクの現在2005年11月23日第1刷発行・定価2000円・236頁・A5判並製本

ホラー・ジャパネスクの現在 (ナイトメア叢書)

ホラー・ジャパネスクの現在 (ナイトメア叢書)

 ナイトメア叢書は一柳廣孝吉田司雄編著のシリーズ(青弓社)で現在までに8冊が刊行されている。細かく見ていけばいろいろと気になる記述もあるのだが、ここでは「きじまさん」に関する記述のみ、拾って置くことにする。
 59〜102頁、第3章「怪異を読む」として収録される3本の論文のうち2つめ(75〜86頁)、奈良崎英穂「心霊からウイルスへ――鈴木光司『リング』『らせん』『ループ』を読む」に、「きじまさん」に触れるところがある。なお、この論文の本題の方だが、私は鈴木氏の諸作を読んでいないので、あれこれ論う訳には行かない。
 79頁9行め〜82頁13行め「2 流行としての「怖い話」」は『リング』の世界の背景となった「怖い話」の流行を指摘しているが、そのうち80頁15〜18行めを引用して見る。

 増殖する怪談といえば、大迫純一の紹介によって脚光を浴びた「木島さん」の話という有名な怪談がある。ひき逃/げ事故の犠牲となった木島さんが亡霊となって犯人を捜していて、この話を聞いた人のところには木島さんの霊が現/れる、というものである(16)。この話自体は一九六〇年代後半から既に語られていたそうだが、そのヴァリエーションの/一つで、片足をもったお婆さんの話という怪談を、論者も小学生のころ(一九七五年ごろ)に聞いた記憶がある。


 注(16)は次のようになっている。85頁14行め。

 (16)大迫純一『あやかし通信「怪」』(ハルキ・ホラー文庫)、角川春樹事務所、二〇〇二年


 まず気になるのは、出典としてハルキ・ホラー文庫を挙げていることである。鈴木氏の諸作が1990年代の時好に投じた理由を論じた本論考で、初刊の単行本ではなく、再刊の文庫版を挙げるのは、宜しくないと思うのである*1。最も新しい版を挙げる方針なのかとも思ったが、注(20)に挙がる浅羽通明「オカルト雑誌を恐怖に震わせた謎の投稿少女たち」は、これを改題再録している『天使の王国』ではなく初出の別冊宝島92「うわさの本」を挙げているので、そういう訳でもない*2。要するに参照した本を挙げたということなのだろうけれども、しかし初刊と再刊に11年の開きのある『あやかし通信』について、再刊のみを挙げるのは配慮が足りないと言わざるを得ない。……ではどうすれば良いのか、であるが、初刊と再刊・再録を全て挙げるべきだと思う。その度ごとに相当数の新たな読者を獲得しているはずだから、その機会がどの程度あったのか、については、この種の論文ではなおのこと、労を惜しまずにメモして置くべきだったろう。かつ、読者が原文に当たろうとするとき、図書館に全ての版がある訳ではないから、複数挙がっていると探すのも容易くなるはずだ。……もちろん、再録が無数にあるような有名作品は、そんなことをする必要はないだろうけど。
 次に問題だと思うのは、「木島さん」と漢字を当てていることである。私が「鬼島さん」としたのは、話者が「鬼島」だと思っていた、というのでこうしたのだが*3、大迫氏の話を紹介するのに「木島さんの話」とするのは、宜しくないのではないか。大迫氏は単行本178頁10行め・文庫版190頁1行め「きじまさんの話のこと」と題して、次のように書いているのである。
 まず単行本には178頁11行め〜179頁2行めに、

 その話は、チームの先輩の、そのまた先輩たちの経験した話として伝えられていた。
 こういう話である。
 きじまさん、という人がいた。
『木島さん』だったかもしれないし『黄島さん』だったかもしれないが、チームを抜/けてしまった今となっては確かめようもない。
 とにかく、きじまさん、なのである。
 先輩たちの友人であった。

とある。文庫版では190頁2〜8行め、

 チームの先輩の、そのまた先輩達の経験した話として伝えられていた。
『きじまさんの話』というタイトル付きで、である。
 こういう話である。
 
 きじまさん、という人が居た。
『木島さん』だったかもしれないし『黄島さん』だったかもしれないが、チームを抜けて/しまった今となっては確かめようもない。
 とにかく、きじまさん、なのである。
 先輩達の友人であった。


 「チーム」というのは大迫氏が所属していたアクション・ショウのチームのことである。
 とにかく、大迫氏の話に言及するに際して、大迫氏が当てていない漢字を「木島」と勝手に決めてしまったのは、テキストの恣意的な改変、ということになるのではないだろうか。大したことではないと言えば、大したことではないのだけれども。(以下続稿)

*1:『あやかし通信』の単行本については、10月5日付「大迫純一『あやかし通信』(1)」で述べた。続稿を用意しているが、単行本と文庫版の異同についての考察には、未だ及んでいない。

*2:この浅羽氏の著書については別に取り上げるつもりなので、今は詳細に及ばない。

*3:10月13日追記】10月6日付(1)の話については当初「木島」としていたのだが、10月6日付(1)の10月13日追記にも述べたが、今日になって「鬼島」だと言い出した。そこで「鬼島」に訂正しておく。