瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

中田薫『廃墟探訪』(9)

 7月24日付(8)の続き。
 随分間が空いてしまった。図書館の本を使っているので返却期限が来るとそこで滞ってしまう。それなら買えば良いのだが、買ってまでやろう(やりたい)とは思っていないのである。どうも、本を捨てたり古本屋に売ったりすることが出来ない。小学校の教科書も実家に積んである。古本屋で本を買ったことはあるが、一度手許に置いた本を売ろうと思えないのである。それに、気まぐれで、研究をしていた頃もいろいろなところに手を出して、たまに、たまたま取り組んだ課題についてその筋の研究会に誘われたりしたこともあるが、それは全くのたまさかに、別の研究課題について調べているうちに、傍証となりそうな資料について考証が尽くされていなかったために、安心してその資料を活用するために、きちんと調べざるを得なくなったから調べたので、別にその筋の専門の研究会に、参加したいなどとは少しも思っていない*1。――貴方がたがきちんと調べずに、好い加減な証拠調べしかしないで済ませて来たから、部外者の私なぞが出しゃばって調べないといけなくなったのだ、と、むしろ、腹立たしい気分なのである。
 今はもう研究の方は廃業状態で、ブログで瑣事を好き勝手に論って、それで良いと思っている。私は大学文学部の国文科は最低限を残して滅び去るべきだと思っているから(そう考える理由も追々述べようと思っているが)そこに自分が食い込もうとは思っていなかった。研究は好きだから、初めから別の足場を作って研究職には就かずに研究だけを続けるつもりだった。博士号を取ったのは、研究職に就かずに研究を継続するには、こういう箔がないと困難だろうと思ったからである。師匠が研究費を獲得して弟子にも手伝わせる、という藝風ではなかったので、殆ど金を使わずにやって来た。師匠に紹介状を書いてもらって大学図書館を通して閲覧手続きを踏んだ上で貴重書を見ても写真を撮らずに筆写して済ませていた。それだのに、研究職に就くと研究費を使わないといけない。しかしながら、関東の田舎出身の、どちらかと云うと浪費家の父と、関西の都市出身の「始末」を旨とする母を見て、母の方を是として育ったせいか、無駄遣いが出来ないのである。少しでも「始末」して、余ったら国に返納してやれば良い。そのくらいに思っている。それで翌年度減らされるのなら、それで構わないだろう。大体古典研究など不要不急で腹の足しにもならないのだから、金を掛けてやってはいけないのである。私は勝手にそう思ったから、そういう藝風を磨いて来た。
 しかし、どうも研究職というのは、そういう「始末」性では務まらないらしい。それならば、研究職に就いて金を無駄遣いする苦痛に耐えるのが、馬鹿げている。研究費が要らないのだから、そもそも研究職に就く必要がないのである。
 けれども、研究職になくて研究が出来るのかというと、やはり博士号では駄目で、大学図書館その他での資料閲覧に制約があるのである。しかし、だからと云って期限付き研究員になろうとも思えなかった。それだのに、研究会に顔を出すと就職の話をされる。もちろん「研究職」への就職である。当時の教授クラスの人たちは当然「研究職」が上がりだと思っていた。今の人とは付き合いがないからどう思ってるのだか知らない。とにかく「早く就職しろ」と言われる。けれどもこっちは研究職に就くつもりがない。向うは就職の紹介なぞ今時出来はしない(もちろん断れない形で変な話を紹介されても、それは困る)が、厚意として「就職」していない若手に逢えば社交儀礼として就職の心配をするのである。――話はまるで食い違って、面倒臭くなる。もちろん同世代の、大学非常勤をやっている連中とも、話は合わない。
 研究が嫌いになった訳ではないが、面倒なのである。学界の思考に従うのが面倒臭いのである。それで、誰もが見得る本を見て、誰もが言われてみれば気付きそうなことを、数え上げて置こうと思ったのである。いや、むしろこうしたことが、私にとっての始まりだったのだ。――これまで調べたことで、まだ遍く人に知られていないことは、出来るだけ明らかにして置きたいと思っているけれども、正直、専門の範囲で調べたことは、私の頭の中にあってそのまま埋もれてしまったとしても、さして惜しくもないように思っている。

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 『廃墟探訪』の続きではなくて、研究者の廃墟(?)となりつつある我身の時に逢わざるを託つような按配になってしまったが、正直間が空き過ぎて、特に前回の末尾について、何をするつもりだったか思い出せない。
 そこで別冊宝島415「現代怪奇解体新書」と『廃墟探訪』RUIN FILE No.33「恐怖の心霊豪農屋敷廃墟」の本文の比較を、やって置こうと思う。対照に際しては、7月18日付(4)に示した対応関係の順に見て行くこととする。(以下続稿)

*1:だから、その筋の研究者に送付しないようにしている。それはそれで問題を生じさせるのではあるが。