瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

赤いマント(96)

物集高音「赤きマント」(4)
 開会後、1月24日付(94)で触れた下間化外先生の話が済んで、出品者の白フリル(その服装に由来する、地の文での富崎ゆうの呼称)は話を「黒服の七十代」添田チヨに振ります。28頁下段13〜17行め、

「チヨさんはどう? 先生みたく恐かった?」
「ふん、妾ゃ、信じちゃいなかったよ、赤マントな/んて。作り事と判っていたからね。実際、そうなん/だろ? 本でも読んだよ。あれは、何と云ったっけ/……そうそう、『わたしの赤マント』、それさ!」


 ここで、参加者たちは「作り事」すなわちありもしないものを出品したのかと騒然となるのですが、白フリルは、29頁上段9〜13行め、

「あ〜あ〜、も〜う〜! うるさいンだから〜! /チヨさんさ、それ、小沢信男の『東京百景』でし/ょ? ちゃんと押さえてるンだから〜! わたしだ/って〜! ねえ〜、みんなもさ〜、馬鹿にしないで/くれる〜!」


 そして、添田チヨに説明を求める声を遮って、説明を始めます。29頁下段1〜4行め、

「い〜い〜? 小沢信男の『わたしの赤マント』は/ね、書簡体の短篇小説でさ、雑誌の読者欄への投稿/って形で書かれてンの! ンで、それを収めたのが/『東京百景』ってわけ! 判った〜?」*1


 そして内容については、29頁下段9〜12行め、

「要するに、あれよ! 赤マントの噂を軸にした、/銃後*2の日本って云うか、子供たちの銃後って云う/か。ノスタルジーたっぷり、ケレンちょっぴり。ま/あ、そんな話」


 これだけです。そして、次のように展開させます。30頁上段1〜7行め、

「ンでさ、『わたしの赤マント』の中に、この本の/事が出て来ンの!」
 少女は文庫本を机に置いた。脇屋氏が手に取っ/た。題を読み上げた。
「『紙芝居昭和史』加太こうじ?」*3
「つまり、赤マントの元ネタは、紙芝居ってわけ/か?」と、老先生。


 老先生は下間化外*4先生で「六十代の禿頭」の「和服」。脇屋氏は参加者の脇屋中*5で「三十代の大兵」で「眼鏡の肥満漢」とあります。奥付の前の【初出】には「「赤きマント Red Red Mant」   小説現代平成十三年一月増刊号「メフィスト」」とあり、以下「五月」と「九月」の「増刊号「メフィスト」」、そして最後の1篇が「書き下ろし」なのですが、巻末の「メフィスト」の広告には「●年3回(4、8、12月初旬)発行*6」とあって、取り上げられている会は1月2日付(72)で確認しましたが、どうも発売された月に合わせてあるようです。そうするとそれぞれの月の「初旬」発売とするとその月の「第四赤口」では先取り(近い未来)ということになってしまいますが、先取りでないとすると今度は1年前(か更に以前)のことを書いたことになってしまい、それも不自然ですので一応、この場合、平成12年(2000)12月に当てて書かれていると見て宜しいかと思います。そしてその場合、「六十代」の下間化外先生が「滝野川第七小学校」の生徒だったとすると、満年齢で上限の69歳の昭和6年(1931)生であれば、2013年12月30日付(70)で見た山中恒と同じく昭和13年(1938)4月入学か、早生れ(昭和5年度の1〜3月)で昭和12年(1937)4月入学ということになります。まぁ「六十代」といっても大体の見た目でしかないので厳密に区切るのはナンセンスのように見えるかも知れませんが、実はここが大事なので押さえて置きましょう。尤も、この小説の設定を平成12年(2000)から遡らせれば、上限もスライドしますから若干マシになって行くのですけれども。
 それから、ここで私があっと思ったのは『紙芝居昭和史』を「文庫本」だと云っていることです。2013年10月25日付(04)で取り上げたときには、「わたしの赤マント」で言及されている単行本と、岩波現代文庫しか見ていなかったのですが、岩波現代文庫は平成16年(2004)8月刊ですから、平成13年(2001)10月刊の『赤きマント』よりも後になってしまいます。そこで慌てて検索して見ますと、夙に「旺文社文庫」にも収録されていたのでした。追って単行本と文庫版2種を比較して見たいと思っています。
 それはともかくとして、小沢信男「わたしの赤マント」は添田チヨによって「赤マント」が「作り事」であることを書いた「本」として言及されているのですが、以下本作では「わたしの赤マント」で赤マントがどのように扱われているのか、全く説明がありません。「わたしの赤マント」の主人公牧野次郎は赤マントを「昭和十三、四年。私が小学五、六年生の時分です」としており、これは作者の小沢氏と同年なのですから、当然、作者の体験を反映させたものと見ることが出来ると思うのですが、本作はそのような想定は全くせずに、単に『紙芝居昭和史』を持ち出す切っ掛けとしてしか、使っていないのです。(以下続稿)

*1:ルビ「しよかんたい」。

*2:ルビ「じゆうご」。

*3:ルビ「かた」。

*4:読みは「しもつまけがい」。

*5:読みは「わきやあたる」。

*6:白抜きゴシック体、●は○で囲われる。