瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

赤いマント(99)

物集高音「赤きマント」(7)
 髭博士(レ博士)は白フリル(富崎ゆう)に対して、「事件があってもなくても、関係」なく「警察が実際に紙芝居を取り締まった」ことが問題なので、「噂」が「先行してる」すなわち「紙芝居が原因でないなら、それはなぜ」なのか、と、なおも説明を求めます。それに対して、33頁下段5〜9行め、

「決まってンじゃん! 紙芝居が噂の流行に便乗し/たように見えたからよ! だってさ、い〜い〜? /噂そのものを取り締まれる? 広めてる犯人を捕ま/えられる? 出来っこないじゃん! だったら、取/り締まり易いのを捕まえるしか……」*1


 同じ役目を小沢信男「わたしの赤マント」では、1月20日付(90)にて見たところですが、「三十歳の銀行員氏」が担っていました。本作では、そちらには一顧だにしません。それはともかく、紙芝居は「見せしめ」という訳ですが、それでもレ博士は納得せずに「犯人でない」のに何故「警察はそんなに躍起になっ」て「焼却処分にまでした」上に「通告して来たの」か、と尋ねます。白フリルは「唇をひん曲げ」「眉を顰め*2」て応じます。33頁下段18行め〜34頁上段13行め、

「ええ〜! そんなことも判ンないの? 博士なの/に〜? 《赤》だからじゃん! 共産主義のアカ。/反帝国主義のアカ。警察からしたら、赤マントはマ/ルキストだったの! その隠語みたく感じられた/の!」*3
 昭和十四、五年は、収容令、統制令の時代だっ/た。また結社の禁止や社会大衆党の解党、大政翼賛/会の発会と、政治的統制の時代だった。そんな中、/赤マントの噂が飛び交った。赤マントの紙芝居が掛/かった。極貧の最中にあった少年を救った。少年を/赤いマントに包んだ。赤い絨毯に乗せた。幼気な少/年を感化した。異界へと攫った。犯人は赤い魔法使/いだった。赤い仙人だった。警察は赤マントを共産/主義者の「諷喩」と取った。「隠語」と読んだ。*4


 ここで共産主義との関連が語られます。先にも触れましたが、小沢信男「わたしの赤マント」にも2013年11月2日付(12)に引用したところ、「銃後の人心を動揺させ、厭戦的気分をひろめるために流言をはなった」と廉で逮捕された「三十歳ぐらい」の「ナントカ勧業銀行の行員」の記憶が語られていましたが、彼は「社会主義思想の持主」だったのでした。それから、大宅壮一「「赤マント」社会学」に、これは2013年11月21日付(31)に引いたところですが、「中学生や女学生の間」では「「赤マント」の「赤」から共産党聯想し、何か共産党と関係のある人物の仕業であるかの如く思いこんだものが多かったらしい」と指摘されていました。
 1月22日付(92)にて、「わたしの赤マント」が「黒色ギャング」を持ち出したことに違和感を表明したのでしたが、この事件は昭和11年(1936)5月24日付「東京朝日新聞」では「日本無政府共産黨ギヤング事件」と称されていました。「黒色」とは無政府主義及びその主義者(アナキスト)の謂なのですが「共産党」という点ではアカの連想も、あった訳です。……それでもやはり、強引な印象は否めないのですけれども。(以下続稿)

*1:ルビ「やす」。

*2:ルビ「ひそ」。

*3:ルビ「いんご」。

*4:ルビ「たいせいよくさんかい・ごくひん・くる・いたいけ・ふうゆ」。