瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

赤いマント(119)

旺文社文庫『紙芝居昭和史』
 加太こうじ『紙芝居昭和史』の旺文社文庫版を見たことは2月15日付(115)にて触れました。
 この旺文社文庫版には単行本(立風書房)にはなかった「文庫本へのあとがき」や付録「紙芝居の作り方・演じ方」そして鶴見俊輔「解説」があるのですが、2013年10月25日付(04)にて言及した岩波現代文庫版は単行本に拠っていて、これら旺文社文庫版にての追加を収録していません。「解説」も水木しげるに書かせているので、書誌的な記述がなく旺文社文庫版は無視された恰好になっています。
 諸本の比較は別に行う予定です*1。長期連載になってしまって本人でも面倒になって来た、というか疲労困憊していてなかなか注意力が続かないので、せめて混乱を避けるために「赤いマント」の記事番号の下1桁を日付の下1桁と合わせて少しでも気持ちを楽に保っているのですけれども、2月下旬は28日までしかないので休んで3月1日付(121)から再開することにします。或いは2月28日付(128)まで続けて、3月上旬にしばらく休んで3月9日付(129)から再開しようかとも考えています。後者は下2桁まで一致しますので、前者よりも何だか気持ちが良いのですけれども。
 この「赤いマント」を休んでいる間に、これまで他に予告したものや出来上がっていながら出せないで来たものを上げてしまおうと考えている訳で、『紙芝居昭和史』の比較もして置きたいなぁと思っているのです。
 それはともかく、今日は旺文社文庫版301〜306頁、鶴見俊輔(1922.6.25生)の「解説」から、赤マント関連の箇所(303頁9行め〜304頁9行め)を抜き出して置きましょう*2。中学頃の私の癖では本屋に行って文庫本を背表紙の標題で興味を持って手にすると、まず「解説」を読んだものでした。今は本屋に行く暇がないくらい、いえ、近所の本屋では品揃えが悪くて、結局図書館にしか行かないのです。ですから久しく「解説」から読むなんてこともしないでいます。――とにかく、私同様「解説」から読む人々は、この鶴見氏の「解説」にて本書に赤マントに関する重要な記述があることを知った筈です。その意味でも、注意して置いて良いものでしょう。

 私のこどものころは、夕暮時に、人さらいがあらわれて、こどもをさらっていってサーカスに売/りとば|すなどといううわさがあった。それがやがて、赤マントをきたあやしの男が人をさらうとい/う、別のうわ|さにかわって、こどもからこどもへと、ささやかれた。
『紙芝居昭和史』を読んではじめて知ったことだが、この赤マント伝説は、加太こうじ作の紙芝居/が、こ|どもの空想のつばさをかりて、かけめぐったものだった。
 東京の日暮里駅に近い谷中墓地のあたりで少女が暴行をうけて殺された、ちょうどその界隈で加/太こう|じのつくった紙芝居が演じられており、それは、赤マントの魔法使いが、街の靴みがきの少/年をさらって|いって、魔法使いの弟子にするという物語だった。実際におこった事件と紙芝居の物/【303頁】語とが、こどもの頭|*3の中で結びついて、赤マントの人さらいのうわさが、こどもからこどもへと流/れていった。
 昭和十五年(一九四〇年)一月のことだったそうである。
 やがてその年の初夏になると、加太作の紙芝居がそのうわさのもとであるとされて、大阪の警察/がその|紙芝居をとりあげ、焼いてしまった。その上で、警視庁から画劇会社にしらせてきたので、/会社の常務が、|今後デマの原因になる紙芝居はつくらないでくれと、加太に注意したそうだ。
 うわさのなかに入りこみ、うわさのリズムをとりいれて流れてゆくような詩を自分はつくりたい/と、現|代韓国*4
の詩人金芝河は言った。そういう詩が日本でつくられたという例を私は知らないが、/紙芝居は、そ|ういうはたらきをしていたということがわかる。


 鶴見氏は昭和13年(1938)に渡米しハーバード大学を卒業、昭和17年(1942)8月に日米交換船浅間丸にて帰国していますから、昭和14年(1939)2月の東京の騒ぎを体験していません。(以下続稿)
2020年11月2日追記】『鶴見俊輔集――12読書回想』(一九九二年三月二十日 第一刷発行・定価4796円・筑摩書房・486+索引128頁・四六判上製本)234頁5行め~239頁7行めに「加太さんの紙芝居学加太こうじ『紙芝居昭和史』)」として再録。

読書回想 (鶴見俊輔集)

読書回想 (鶴見俊輔集)

 478~486頁「解 題」の484頁5~6行めに、

加太さんの紙芝居学  一九七九年十月、加太こうじ著『紙芝居昭和史』(旺文社文庫)の「解説」として発表さ/れた。本巻収録に際して上記のように改題した。

とある。今手許に旺文社文庫版『紙芝居昭和史』がないので、ここに引用した箇所のみ比較したが同文である。

*1:2016年8月11日追記2016年8月10日付「加太こうじ『紙芝居昭和史』(2)」以下に比較して見た。

*2:【2020年11月2日追記】『鶴見俊輔集』の改行箇所を「|」にて追加した。

*3:【2020年11月2日追記】『鶴見俊輔集』はここまで236頁。

*4:【2020年11月2日追記】「刊行」と誤入力したままになっていたのを修正した。