瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

中島京子『小さいおうち』(09)

・空白の3年間
 6月3日付(2)に、主人公布宮タキはヒロイン時子の実家で1年ほど過ごしたはずなのに、そのことについて何ともしていないことを指摘したのだが、そういえば「小さいおうち」の建つ前の平井一家のことも何等回想されていない。第一章6、単行本20頁6行め・文庫版23頁8行め「奥様」が「平井家に嫁いだ」のは「昭和七年の暮れ」で、第一章7、単行本21頁5行め・文庫版24頁7行め「平井様のお邸*1」が「建った」のは「昭和十年」である。第一章8、単行本21頁11行め・文庫版24頁14行め「奥様が二度目の結婚をして三年目に、あの赤甍を載せた二階建ての家は建った。*2」と云うのだけれども、そうすると1年めの昭和8年(1933)と2年めの昭和9年(1934)の2年間が、まるまる省略されていることになる。これも“小説”だと思えば不自然ではないが、無名の老婆・布宮タキが書いた“ノート”であるという設定を勘案すると、少々不自然な気がするのである。少しくらい、新婚当初の平井一家の暮らしぶりが回想されても、良いではないか。
 第一章8、単行本22頁2〜3行め・文庫版25頁5〜6行め「あの家の最初の光景」として「家|が建って間もない/ころの、ある冬の日のこと」が回想される。この場面ではヒロインが単行本23頁18行め〜24頁1行め・文庫版27頁7〜8行め「お見合いの席」での約束から「三|年で、ほ/んとに建」ったと語っているが、単行本頁行め・文庫版27頁14行め、その「奥様」は「二十五の女ざかり」なのである。すなわち満25歳、昭和10年(1935)の誕生日がまだ来ていない時期なのである。
 それからしばらくしてタキは、第一章9、単行本27頁5〜6行め・文庫版30頁14〜15行め「引っ越しのご祝儀のお礼」を持って「奥様のお姉|様にあた/る麻布の奥様」を訪ねる。そして帰宅後、「奥様」時子に「麻布の奥様」との会話について報告するのだが、ここには時事問題が幾つか持ち出されてくるので、稿を改めて検討することにしたい。(以下続稿)

*1:文庫本ルビ「やしき」。

*2:ルビ「いらか」。