・布宮タキの親族(1)
近くに住んでいる甥一家のことは第一章1から見えている。甥は最終章2、単行本282頁16行め・文庫版301頁10行めにのみ「智*1」という名前であることが示されている。それはともかく第一章1に戻って、この甥はタキの「貯金」の「一部を株にして‥‥運用し」たり、第一章2、タキに女中の仕事は「家事代行サービス」が取って代わったことを教えたりしている。さらに単行本7頁15行め〜8頁2行め・文庫版10頁1〜7行め、「女中」という語についての考察にも登場する。
いつ、日本から「女中」という言葉がほんとうに消え去ったかについては、きっと、|専門に勉/強している方もおられるような重大問題であろうが、わたしの記憶では、昭和|四十年代くらいに/は、まだ残っていたように思う。高校生だった甥が、『赤頭巾ちゃ|ん』だか『黒頭巾ちゃん』だ/かいう流行小説を読んでいて、その中に、お手伝いさんじ|ゃなくて女中と呼んでくれ、と胸を叩/く女中のよっちゃん、というのが出てくると教え|てくれた。なんだかちょっと伯母さんみたいだ/ね、と聞かされたことがあったが、あの|あたりが最後であろうか。
当時高校生の甥が読んでいる「流行小説」の『赤頭巾ちゃん』とは、庄司薫(1937.4.19生)の『赤頭巾ちゃん気をつけて』である。
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甥の母親のことは、昭和19年(1944)3月に平井家を辞して故郷山形に帰ったときの、家族の様子を説明した中に見えている。第七章3、タキの兄弟は6人で「上の兄」は「中支」で「負傷」して「帰国し、その後、仙台の工場で働いていたが」今は「女房と子供二人連れて、戻ってきてい」る。しかし帰郷の理由が「やはり空襲が怖いという」ことになっているのは、この時期としては早きに過ぎるのではないか。まぁタキが耄碌して記憶違いをしていた、ということにすれば良いのだけれども。続いて残りの兄弟についても、単行本243頁15〜16行め・文庫版261頁8〜10行め、
下の兄は兵隊で外地。嫁いでいた姉二人も、夫をそれぞれ兵隊と徴用で取られたため、|子連れ/で疎開してきて、年の離れた下の妹はまだ嫁に行かずにいた。この、下の妹の孫|が、健史だ。‥‥
とあるのだが、2人の姉のどちらかの息子が、6月9日付(06)でも触れた「軍治おじさん」である。(以下続稿)