瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

遠藤周作「幽霊見参記」(05)

 9月14日付(01)に列挙した、初期に発表された文章を再録する本の紹介に戻って、近年、これらの文章を網羅した東雅夫編のアンソロジー2種を見て置きます。
ちくま文庫 文豪怪談傑作選・特別篇『文藝怪談実話』二〇〇八年七月十日第一刷発行・定価900円・筑摩書房・394頁
 書影は2011年1月12日付「画博堂の怪談会(1)」に貼付済み。11〜90頁「怪異に遭遇した文人――現代作家篇」に遠藤氏と三浦氏の「幽霊見参記」、遠藤氏の「私は見た」が収録され、東氏の388〜394頁「解説 文人と怪異と」に「別冊週刊サンケイ」のアンケートも紹介されています。まずこの「解説」から眺めて置きましょう。
 初めに『文藝怪談実話』編纂意図を説明し、それから389頁3行め〜390頁3行めに「『別冊週刊サンケイ』第六号(一九五七年七月)の「怪談スリラー/特集」を紹介しています。そして389頁16行め〜391頁5行めが遠藤周作について述べたところになります。両者が交わる辺り、389頁12行め〜390頁3行めを抜いて置きましょう。

‥‥各界著名人への大がかりなアンケート企画/(質問項目は「一、霊魂や幽霊の存在を信じますか」「二、“ムシが知らせた”経験は?」の/二つ)もあり、それらの一部は後に今野圓輔の名著『日本怪談集 幽霊篇』(一九六九)で/も、貴重な証言集として大いに活用されることとなった。
 ちなみに、当時新進気鋭の芥川賞作家だった遠藤周作が右のアンケートに寄せた回答は、/きわめた単刀直入で異彩を放つ。すなわち――
「(一)幽霊を見ましたから信じます。それは熱海の宿屋で遭ったのです(昨年の終り)」
 これで全文である。その右上には、盟友たる三浦朱門の回答も載っている。
「(一)幽霊か霊魂らしきものを見ることはあります。しかし、確信はありません。従って、/その存在についても、半信半疑です。」


 このアンケートはもう1種のアンソロジーの「編者解説」にも引用されています。
・MF文庫ダ・ヴィンチ『私は幽霊を見た 現代怪談実話傑作選二〇一二年八月二四日初版第一刷発行・メディアファクトリー・364頁

 こちらは章立てなどはなされていません。前後するところも多々ありますが、大筋では年代順に並べてあるようです。「文豪怪談傑作選」と銘打ったシリーズの1冊『文藝怪談実話』に比して、こちらもやはり作家が中心なのですが、もう少し広く採録しています。
 それでは、東氏の355〜364頁「編者解説」から、アンケートに関係するところを抜いて見ましょう。361頁3〜14行め、

 ところで、牧野吉晴の「私は幽霊をみた」が『大法輪』の「霊界とはこんなもの*1」特集に/掲載された一九五七年は、戦後怪談実話史において特筆すべき年であった。
 同年七月発行の『別冊週刊サンケイ』第六号「怪談スリラー特集」は、実話はもとより座/談会あり小説あり、一冊まるごとが内外の怪談奇聞についやされた画期的な企画で、「ここ/に収録した実話怪談は、本誌特集のために特に本社地方通信網がキャッチしたものである」/と銘打たれた「実話怪談ローカル版」という記事や、各界著名人へのアンケート企画(質問/項目は「一、霊魂や幽霊の存在を信じますか」「二、“ムシが知らせた”経験は?」)もあっ/て、それらの一部は後に今野圓輔『日本怪談集 幽霊篇』にも採録されることとなる。
 そのアンケートに――「(一)幽霊を見ましたから信じます。それは熱海の宿屋で遭った/のです(昨年の終り)」「(一)幽霊か霊魂らしきものを見ることはあります。しかし、確信/はありません。従って、その存在についても、半信半疑です。」と、それぞれ回答を寄せた/新進作家たちがいた。「悪い旅行」の三浦朱門と「三つの幽霊」の遠藤周作である。


 全体に『文藝怪談実話』での説明を簡略にしたもので、省略しましたが「別冊週刊サンケイ」の内容紹介は『文藝怪談実話』の方が詳しいのです。(以下続稿)

*1:2016年11月26日追記】投稿当初「例会」と誤っていたのを「霊界」に訂正した。