瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

山岸凉子『日出処の天子』(10)

 昨日、小長井信昌『わたしの少女マンガ史』の記述を抜いて『日出処の天子』にも触れました。もちろん『日出処の天子』についての記述もあります。
 前回引いた「『花とゆめ』『LaLa』から生まれたもの」の章の「白泉社コミックスなど」の節の続き、138頁11行めに「 マンガ関連では、後に94年に「白泉社文庫」が名作的少女マンガを主体として創刊した。/‥‥」として、白泉社文庫に触れています。創刊のきっかけは文庫判の『ブラック・ジャック』(秋田文庫)が、139頁2〜4行め「非常に売れてい/ると販売の情報を聞いた」ことで、小長井氏は「白泉社のマンガは名作的でもあり、ちょっと高級感も/出しやすいし文庫に最適、少女や大人の女性層にも向くと思った」というのです。
 漫画が文庫化がブームのようになった頃、――単行本でも目が悪くなると言われていたのにこの上文庫判にするなんて、しかも、かくも多く、かつ続々刊行されるなんて、一体どうなってるんだと戸惑った記憶があります。私は同じものを目先を変えて出すのは、商売の仕方としては有効だと思うのですけれども、あまり好きではないのです。なるべく当初の形で長く出し続けて欲しい。版が変わって頁がズレたりすると、引用の際に混乱が生じます。世の中には自分の依拠した版を明示せずに引用する人がいて、そういうことが一向に気にならないらしいのですが、私はせめて主要な版くらいは確認して置きたいと思ってしまうので、版が多いと困るのです。……今は老眼で読みにくいから文庫化反対。やっぱり目にやさしくないです。なんか、勢いって怖いな。
 それはともかく、白泉社文庫創刊を思い付いた小長井氏は、編集者としての勘を発揮して、これを成功に導きます。139頁4行めの続きから、12行めまでを抜いて置きましょう。

‥‥。私は、第一回は、美内―/山岸作品でいこうと閃いた。直ちにお二人の所にとんで行ってお願いしたところ、雑誌の掲/載が『花とゆめ』『LaLa』ということもあり、すぐ決定した。続いて萩尾、竹宮、大島/作品も入れることができた。一足違いで他社からもオファーが来ており、危ない所だった。/この時は、カバーデザインは羽良田平吉さん*1にお願いし、いいものができたと思う。
 カバーの主体の色は「ガラスの仮面」が赤、「日出処の天子」が黒という装丁で、「ガラス/の仮面」は表紙の絵をあえて他のさしえ風のイラスト画家に依頼したが、これがかえって新/鮮な文庫らしさを出した。われながらこのカンは当ったと思う。以後白泉社文庫はかなりよ/い実績を上げることができ、コミックスと共に白泉社の柱の一つとなった。‥‥


 平成6年(1994)年3月22日初版発行で『日出処の天子』は1月24日付(02)に示したように全七巻を一括刊行、『ガラスの仮面』は2014年12月15日付「美内すずえ『ガラスの仮面』(44)」に示したように第6巻までが刊行されたのでした。『日出処の天子』のカバー・イラストは作者本人(連載時のカラー原稿)ですが、『ガラスの仮面』は違っています。
 それはともかく、初めに戻るようですが昨日、2月4日付「山岸凉子『アラベスク』(05)」に引用した同じ節の記述にあったように、花とゆめCOMICSも、白泉社文庫も、山岸氏の作品がその創刊のラインナップに入っています。『アラベスク』は人気はともかく「花とゆめ」創刊からの連載ということという巡り合わせもありましょうけれども、既に完結していた『日出処の天子』は、作品(商品)として選ばれている訳です。(以下続稿)

*1:4月15日追記】原文のママ、正しくは「羽良多平吉」。