瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

吉田秋生『吉祥天女』(1)

 美貌で長身、スタイル抜群で成績優秀の転入生によって、平凡な学校・生徒に波瀾が生じるというパターンの物語は多数あるのだろうけれども、私の読書量では大して多くの例を挙げられそうにない。
山岸凉子ハーピー
 50頁の短篇でいろいろな作品集に再録されているが、私が読んだのは文春文庫ビジュアル版『天人唐草 自選作品集(1994年3月10日第1刷・1998年12月5日第9刷・定価619円・文藝春秋・255頁*1)67〜116頁。

天人唐草―自選作品集 (文春文庫―ビジュアル版)

天人唐草―自選作品集 (文春文庫―ビジュアル版)

 主人公は進学校に通う高校2年生の男子生徒佐和春海。「1年の3学期に」編入してきた川堀苑子に試験での席次を奪われたことから意識し始める。川堀の編入が「一大センセーションをまきおこし」てしまうくらいの進学校で、はっきりした目鼻立ち、細くすらりとした手足、そして制服を突っ張らせてしまう程大きく、形の良い胸。――東大の女子学生は(すなわち勉強の出来る女子は)地味で生意気な「ブスばっか」と言われた時期*2には稀な「高根の花」なのである。
 主人公は、川堀がわざと自分に示して来る(と思い込んでいる)意味ありげな微笑や太股を見せるような仕草を異様に意識している。しかしこの意識を主人公は最後まで、恋愛感情とは認めないのである。――進学校の、主人公の友人が101頁2〜3コマめに「ちぇっ 体育祭なんてまったく時間のむだだよな我々はその間単語のひとつも覚えにゃならんときだってのに」と平気でぼやくような環境にあって抑圧された想いは、主人公をして遂に川堀の正体はハーピー(女面鳥獣)であると妄想せしめるのである。
 私の高校は進学校ではなくて編入生もおらず、いなくなった生徒もいないのだけれども、そうでなくても吃驚するような美少女もおらず、いや美少女くらいいたのだろうけれども私などの相手になるような存在ではなかったからいないのと同じで、体育祭だってしっかり愉しんで呑気に過ごしていたのであった。
 さて、川堀は俊足でリレーのアンカーを走って3人抜きで1着でゴールするのだが、私も2014年8月14日付「ネタバレと引用*3にも書いたことがあるけれども、高3の体育祭でリレーのアンカーを走ったのだった。
 それはともかく、この「ハーピー」を読んで、やはり最近読んだこの漫画と(もっと長くて複雑な話だけれども)その冒頭に於いては同じパターンだな、と思ったのである。
 その点に及ぶ前にもう1つ、やはり才色兼備の転校生の登場する作品を取り上げて置こう。(以下続稿)

*1:Amazon詳細ページのなか見!検索によってこの刷の扉・目次・奥付等、それから背表紙以外のカバーが閲覧出来る。

*2:初出は昭和53年(1978)の「プチコミック」12月号増刊。

*3:ちなみにこの記事に書いた靴だが、今は足に馴染んだのだけれども穴が空いてしまって雨の日には履けない。