瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

楳図かずお『ミイラ先生』(06)

 昨日の続き。比較の要領は5月9日付(03)に示しました。
・文庫版131頁(複写)扉絵
 連載第4回の扉絵で、以後の版には使用されていない。
・文庫版132頁(複写)=完全復刻版50頁=単行本55頁
 1コマめは連載第3回の最後のコマ(文庫版129頁6コマめ=完全復刻版49頁6コマめ→単行本54頁)にほぼ同じ。ミイラ(実は葉山先生)の台詞、文庫版はこれのみ複写のままで「絵…美…子……」、完全復刻版「絵美……」、単行本はこの吹出しを塗り潰している。完全復刻版49頁と50頁で表裏になるが、単行本は54・55頁で見開きになるので、それぞれ吹出しを1つずつ塗り潰して整理しているのである。絵美子の台詞、文庫版「きゃあっ 先生!」完全復刻版「先生 こわい」単行本「先生! こわい」。
 3コマめの絵美子の台詞、文庫版「先生! いま ミ ミイラがあたしの名を よびました……」完全復刻版「先生 いまミイラがわたしの名をよびました…」単行本「先生! いまミイラがわたしの名をよびました……」。文庫版のみ「あたし」となっているが、どうも活字を新しく入れ直している箇所には不安がある。
 5コマめの葉山先生(実はミイラ)の台詞、文庫版「気のせいです ミイラは口を ききませんもの」完全復刻版・単行本「気のせいです ミイラが口をきくわけがありません」。
・文庫版133〜143頁=完全復刻版51〜61頁=単行本56〜66頁
 文庫版と単行本は完全に一致する。完全復刻版には若干、助詞や接尾語などに異同が認められる。
 文庫版133頁1コマめの絵美子の台詞「で でも たしかに絵美って」は、文庫版のミイラ(実は葉山先生)の台詞が2箇所(129頁6コマめ・132頁1コマめ)とも「絵…美…子……」となっている*1のと齟齬している。
 文庫版は、現存する原稿(=単行本)と絵に相違がない頁は、初出誌ではなく原稿から製版しているようだ。その判断はそれで構わない。しかし(単行本化に際し描き改められたために)初出誌をそのまま複写している頁を見るに、吹出しにかなりの異同が指摘される。この台詞の修訂は、絵を描き換えた頁に止まらず、絵はそのまま使っている頁でも行われているのではないか。
 初出誌の吹出しの文字は漢字がゴシック体、仮名が明朝体で原稿の漫画一般と同じである。完全復刻版の吹出しの文字は、ゴシック体はともかくとして明朝体和文タイプのような字体になっている。単行本ではこれを全て組み直している。その際に若干の異同が生じていることはこれまで見て来た通りである。台詞はむしろ、絵の方はあまり改めていない初出誌から花文庫版(完全復刻版)への編集に際して、改められた箇所が多いようである。
 そうすると、文庫版で(初出誌の複写ではなく原稿から製版して)単行本と一致する頁で、台詞が完全復刻版と異なっている箇所は、文庫版は単行本化に際して修訂された台詞を示している訳だから、初出誌には完全復刻版に近い台詞が入っていたのではないか、との疑いを抱かざるを得ない*2
・文庫版144頁(複写)1〜2コマめ=完全復刻版62頁1〜2コマめ=単行本67頁1〜2コマめ
 2コマめの生徒たちの台詞、文庫版「わあいっ」完全復刻版・単行本「わーっ」。
・文庫版144頁(複写)3コマめ=完全復刻版62頁3コマめ→単行本67頁3コマめ
 単行本は左右を書き足して横幅一杯にしている。絵美子の台詞は吹出しが2つ、うち文庫版は1つめのみ文字を新しくしていて、この頁の他の吹出しは初出誌のままである。文庫版「さあて あたしはどこでかこうかな/みんながびっくりするようなのをかかなくちゃね」完全復刻版・単行本「さて わたしはどこでかこうかな/みんながアッというのをかかなくちゃ」。やはり文庫版の文字を改めているところの「あたし」が気になる。
・文庫版144頁(複写)4〜5コマめ=完全復刻版62頁4〜5コマめ→単行本67頁4〜5コマめ
 文庫版・完全復刻版は3コマめの左に縦に並んでいる。単行本は3コマめの下に横に並んでおり、それぞれ上部を書き足している。4コマめの絵美子の台詞、文庫版「あそこがいいわ だれもいないし……」完全復刻版・単行本「あそこがいいわ 誰もいないわ」。
・文庫版144頁(複写)6〜7コマめ=完全復刻版62頁6〜7コマめ→単行本68頁1〜2コマめ
 絵美子の台詞、文庫版6コマめ「ラン ラン/どんな絵をかけば葉山先生 いい点くださるかしら」完全復刻版6コマめ「らんらんらん/どんな絵をかけばいい点を下さるか わたし葉山先生の好みを知っているの」単行本1コマめも同じだが「くださるか」のみ異なる。完全復刻版は台詞が収まらずに吹出しの左の枠線を消して、1行はみ出している。単行本はコマの横幅を倍にして左右を書き足し、台詞を吹出しに収めている。
 次のコマは単行本は左側を少し書き足している。絵美子の台詞、文庫版「いやあね この木 いくらかいてもだめだわ」完全復刻版「いやね……この木 いっくらかいてもうまくいかないわ」単行本「いやね…この木 いくらかいてもうまくいかないわ」。
・文庫版144頁(複写)8コマめ=完全復刻版62頁8コマめ=単行本68頁3コマめ
 文庫版・完全復刻版は以上3コマを頁下部に横に並べる。
・文庫版145頁(複写)1コマめ=完全復刻版63頁1コマめ=単行本68頁4コマめ
 絵美子の台詞、文庫版「まあっ」完全復刻版「あっ」単行本「あっ」。文庫版はこの頁の台詞も初出誌のまま。
・文庫版145頁(複写)2コマめ=完全復刻版63頁2コマめ=単行本68頁5コマめ
 単行本は右側を若干書き足す。絵美子の台詞、文庫版「葉山先生!」完全復刻版・単行本「葉山先生」。
・文庫版145頁(複写)3〜6コマめ=完全復刻版63頁3〜6コマめ→単行本68頁6〜9コマめ
 文庫版・完全復刻版は1〜6コマめが3コマずつ横に並んでいたが、単行本は68頁下半分に2コマずつ横に並ぶ。6コマめは右側を書き足し、7〜9コマめは左右を書き足す。
 絵美子の台詞、最初のコマの「絵美子さん そこの木はこうかけばいいのよ 手をかしてごらん」一致。文庫版4コマめ「なんてきつい香水…いつもの先生のものとはちがうわ」6コマめ「あっ 先生の手が!」完全復刻版4コマめ「なんてきつい香水 いつもの先生の香水のにおいとちがうわ」6コマめ「はっ先…先生の手が!」単行本6コマめと7コマめは完全復刻版に同じで9コマめ「はっ! 先…先生の手が!」。
・文庫版145頁(複写)7コマめ
 完全復刻版には同じような絵がない。単行本には似た絵があるが別物。(以下続稿)

*1:ともに絵は初出誌の複写だが、後者は文字も初出のままであるのに対し、前者は文字を新しくしている。

*2:6月6日追記】初出誌→完全復刻版→単行本、と毎度改訂された台詞が、たまたま何度も初出誌=単行本ということになるだろうか。原稿から製版した頁については、文庫版は初出誌の再現には(吹出しについては)なっていないのではないだろうか。この辺りの問題については細切れにやってもややこしくなるだけなので、稿を改めて論じる予定である。