瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

断片と偏り

 御嶽山の水蒸気爆発以来、大したことでもないのに大騒ぎをするようになった。いや死者63名なのだから大した災害なのだけれども、しかし噴火の規模としては大したものではなかった。土曜の昼で火口の近くに多くの人がいたこと、水蒸気爆発で前兆がつかみにくかったこと、すぐに活動が最高潮に達したこと等が原因でこれだけの死者が出たのである。そう云えば先月の桜島は何だったのか。阿蘇山の火口周辺約2kmの警戒なんて、国会中継NHK Eテレに押しやって全国に報道する価値なんかないだろう。誰も住んでいないし、誰も死んでいない。地元住民に避難の必要もないのに。
 総理や官房長官が会見するほどか? 官房長官は「こうばい」と発音したぞ。
 昼や夜のTVニュースで各2分くらい、新聞なら写真入りで長くても20行で済ませて良いレベルだ。
 石下(常総市)の堤防溢水・決壊も、ヘリコプターを多数飛ばしながら氾濫した水の全体的な把握をするような報道はほぼ皆無で、決壊から浸水まで相当の時間差があったにも関わらず住民の避難している常総市役所や、書棚に本がそのままになっていた常総市立図書館の水没を招いた。自衛隊災害派遣車輌が市役所の駐車場で並んで水没している様は本当に悪い冗談だった。これから水が達するはずの地域に対し、2階への移動による財産の保全を計らせた上で避難するよう十分余裕をもって指示出来たろう。
 常総市役所が数十年に一度の事態に上手く対処出来るような有能な職員を抱えていなかったことは、まぁ仕方がないであろう。それ以上に、自衛隊が深刻である。経験のない田舎の市役所があの体たらくなのはともかく、経験を積んでいるはずの自衛隊がこの体たらくでは、国民の生命と財産を守れるのかと不安になってくる。もちろん、ヘリコプターで人命救助に当たっていた現場の人員に対する批判ではありません。大所高所に立って指令を発する立場の人間が、情報蒐集の上で今後の展開を読んで判断して、ぼやぼやしている現場の足らざると至らざるとを補うくらいでやってくれないと、首相の所謂「国家存立危機事態」への対処も、このまま法案が成立したとしても大変不安だ。もっと審議を尽くすべきじゃあないのか。
 ある場所に眼を奪われるとそうでないところに隙が生ずる。電柱おじさんやヘーベルハウスに注目するのも結構だが、溢れた水がどこに向かっていて、どうなるのか、という発想が報道機関に殆ど認められなかったこと、あるのは野次馬根性に類するものばかりだったことが判明したのは、初めのうちは、まぁこんなもんか、改めて驚くまでもない、という気持ちだったのだけれども、次第にコタえて来た。自衛隊がこの程度のことも「想定外」で、あんな損害を喫してしまうようでは。
 思えばソチオリンピックのとき、山梨県を中心に異常な大雪を観測していたのに、フィギュアスケートの中継を優先させるかのように気象庁も特別警報を出さず、台風のときには被害が生ずる以前から同じような警戒情報を繰り返し繰り返し流し続けるNHKも、台風のような災害報道態勢を敷かず殆ど無視し続けた。……それだのに今日は本当に何なんだ、この馬鹿に手厚い、すぐに収まってしまった阿蘇山の噴火を、さも深刻なように報道し続ける神経は。
 しかも、最近火山噴火の取り上げ方が大袈裟になってきたことで、理解も深まってきているのかというと、全くそんなことはなくて、ワイドショーのコメンテーターレベルの素人談義が大きくなるばかりだ。悪影響の方が大きい。アナウンサーが「大きな活動」とか云っているが、大きくないから。またコメンテーターどもが深刻そうな顔をして徒に不安を煽るような口調で「しっかり対策してもらわないと」とか言い出すかと思うと頭が痛くなる。スーパー堤防もシェルターも要らない*1。もっとまともな対応が欲しい。
 何だか、ソチのために山梨県を隠蔽したのと同じような背景があるのかしらんと勘繰りたくもなってくる。――火山に限って云えば、この異常な盛り上げによってさらに無駄な予算が動く口実になりはしないかと危惧している。
 日本海中部地震津波に慌てて以来、地震のたびに規模や震源に関係なく「この地震による津波の……」と言い続け、そして波高予測が50cmの津波でも、さも凄いものが襲ってくるかのように「海から離れて」などと連呼し続けたことで、例の三陸沖の巨大地震津波で、明治・昭和と津波被害に遭っている三陸にして一種の慣れを生じさせて、高を括って逃げずに呑まれてしまった人たちを少なからず出してしまったことを忘れたのだろうか。土木工事よりも個人や自治会・事業者・学校がどうすれば良いかを規模に応じて具体的なイメージ(CGとか)で示して意識させるべきだろう*2
 ソーシャルメディアの発達などもあってか、目立つものにわっと殺到する傾向が強まっているような気がする。情報が少ないのではない、偏っているのだ。いや、多いわけでもない。偏って目を注がれない方の情報は、本当に少ない。この偏りを利用してか、新人の役者も少しずつ実績を積んで行かせるという売り出し方ではなく、複数の良い時間帯に放送されているドラマや、有名な原作のある映画などにいっぺんに良い役で出演させて、演技が上手い訳でもなくそれほど魅力的だとも思えないにも関わらずCMにも出ずっぱりである。時間差があればあのドラマで人気が出たから他でも良く見るようになったのか、と納得出来るのだが、そのドラマの中でも人気が出ていない役として出演中なのにCMが何本も決まっていると云うのは、実績でつかんだのではなく人気が出やすいドラマ枠にねじ込んだので人気が出るだろうとの見込みで事前に押さえたのだろう。次の手が早すぎて不自然なのである。次の「一手」ではなく束になっているし。まず事務所ありきのようなキャスト・脚本のドラマも目立つ*3。スポーツ選手も自然に人気が出るのを待つのではなくスターに仕立てたいらしい選手ばかりを報道する。対してソチで銀メダルを獲った人たちや競技は、今や初めからなかったかのような扱いだ*4。むしろ報道機関こそが(特に公共放送NHKが)見識を示して過剰な盛り上げや偏りを抑制するべきだろうに、どこの誰とも知れない人のツイートを画面の枠に表示して悪乗りしている。今や噴火と聞けば「噴煙が2000mっ!」とつい最近の御嶽山口永良部島の噴煙の高さ*5をすっかり忘れて騒ぎ、白い噴煙が風に棚引いているのを見て「大規模な噴煙が依然として」などと言い、噴火時のVTRを見ては「うわぁ〜っ」を連呼するとか、大したことでもないことを大袈裟に言い過ぎである。噴火を扱ったことも何度かあるだろうに、全く学習していないらしい。好い加減にしてもらいたい。そして、こうした無知な連中の発言に調子を合わせるかのような専門家の発言を聞いていると、予算が欲しくて注目されたくて、出来るだけ大袈裟な印象にしたいのかと勘繰りたくもなる。
 本当に、あの阿蘇山の、この程度の規模の噴火で、一体どの程度の影響が地元の生活に生じるか、冷静に査定してもらいたい。騒ぎ過ぎの方が被害が大きくなるのではないか。火山・地震の関係者が予算引出しの口実に使って焼け太るばかりで。

*1:9月15日追記NHKの19時のニュースで「1m60cmの噴石も」と強調していたが、火口周辺にそんなものが落ちても何の不思議もありません。人里にまで達したのなら大事ですが。京都大学火山研究センターの教授がこの噴石を指して「直撃を受けたらシェルターも危なかった」というようなことを言っていましたが、火砕流が発生したのだからシェルターが潰れなくても熱灰にまぶれて死ぬか瀕死の重傷でしょう。なお私は、2014年9月30日付「「ヒカルさん」の絵(1)」及び2014年10月27日付「浅間山の昭和22年噴火(19)」に述べたように、少しでも危なければ人を入れない対応をすべきだと思っているので、シェルター設置という方向(つまりこうなったときに火口周辺に人が立ち入っている可能性がある)には否定的です。それでも突発的な災害は免れないとは思うのだけれども。

*2:以前住んでいたところで、地主や不動産業者が郷土史家に圧力を掛けてくるという話を聞いた。以前、寺や墓地であったことを明らかにされると地価が下がるから、そういうことは書けない(書かせない)と云うのであった。昨年の広島県の八木・緑井の土砂災害現場も、土砂災害警戒区域への指定を妨害する動きがあって、無秩序な開発が進んだとの指摘があった。低湿地であることもやはり地価に影響するので隠蔽されがちである。田圃を造成した住宅地(田圃に囲まれたり、田圃に盛り土した程度の高さしかないような住宅地)は、水に浸かる危険性があるということなのだが、業者から事前に予告されることもなかろうし、事前に気付くほどの人なら最初からそんな場所で家を探したりしないだろうし。

*3:そりゃ昔からあったんだろうけれども。

*4:フィギュアスケートは高額チケットが売れるショーになりうるけれども、スキーやスノーボードは寒冷地の屋外でやって観客から万単位の観覧料を取る訳に行かない。金ヅルにならないから金メダルを獲ってもフィギュアスケートで6位だった人ほどの扱いは受けなかったであろう。……全て経済的観点から軽重が付けられてしまう。

*5:桜島の噴火は数が多すぎて覚えられないだろうし、先月の警戒レベル騒動の際は大人しくなって「噴煙2000mっ!」なんてことにならなかったから、敢えてここには挙げない。