瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

山本禾太郎「東太郎の日記」(04)

・「週刊朝日」の「新大衆文藝『事實小説』募集」(1)
 この企画は、10月7日付(02)に引いた山下氏の指摘する当時の風潮の中から発想されたものでしょう。
 それでは、募集の出た号について眺めて置きましょう。
週刊朝日創刊十周年特別記念號(第二十二卷第六號通卷第五百八十八號)昭和七年八月一日發行
 上に示した題は背表紙にあるもので、上部に赤字で標題、中央やや下に明朝体で号数、下部に明朝体で発行日が入っています。すなわち角背の、B5判並製本、版元は朝日新聞社で224頁。
 表紙には横組みで上部に「日朝刊週」その下に左寄せで「 年周十刊創號念記別特 」、その下、左寄せで縦組みで3行、中央に「二大懸賞募集」とあって左右に子持線。その右に「〈寫 眞懸 賞〉カメラ・パズル〈受賞者一千名〉」、左に「〈新大衆文 藝〉事 實 小 説〈賞 金一千圓〉」、下部に「錢十三價定」とあります。表紙絵は仰向けの裸婦の上半身です。
 募集記事は【 96 】頁全面で、テーブルクロスの房のような枠(幅0.5cm)があって、上部に右からの横書きで「本誌十周年記念亊業/〈新大衆/文藝〉『亊実小説募集/賞金壱千円提供」とあります。〈 / 〉で示した角書きは縦書きで、二重鍵括弧『 』は字間に小さく入っています。
 その下に両端が「・」になっている横線(10.0cm)があって、その下は縦組み、右側に文章、左側は募集要項で破線(5.1cm)で仕切って2段に組まれています。改行位置は「|」で示しました。まず右側を抜いて見ましょう。

 わが「週刊朝日」は創刊十周年を記念する事業の一つとして左記の條件で新大衆文藝ともいふべき「事實小説」を一般から懸賞募集する。「事實」と「小説」、これを連繋した「事實小説」の概念は嚴密に分析する場合、いろ/\と議論も出るのであるが、こゝではごく素朴で平易な見方をとり、事實を根基としてこれに小説的構成または加工を施したもの、「實話」と「小説」の二點間に一線を劃するならばその中間に、しかもやゝ「實話」に近い點上に在るものゝいはゆる新報告*1文學の類を「事實小説」と考へたい。「事實小説」はむしろ|明日を約束される文藝の新領域であり、今よりして開拓され、造形されるであらうところの、新しき革袋に盛られる新らしき酒である。應募諸氏は我々個人、社會生活中に去來する美醜明暗樣々のトピツクを捉へ、これを進歩的な觀點、新鮮なる感覺、自由の技巧によつて奔放に描き出されたい。この「事實小説」なる新殿|堂建設のため氣鋭の士が奮つて投稿されんことを切に希望する。


 左側の上段、大きく「 賞 金」とあって、

一等 (一篇三 百 圓
二等 (三篇百五十圓
佳作 數篇を採用し相當の謝禮
(殘り二百五十圓を分割)をなす

とあります。残りの4行はさらに小さい字が使用されているので入力の基準を変えました*2。ゴシック体と明朝体の大きさを同じにしましたは実際には「佳作」の条と同じく明朝体は若干小さくなっています。

枚 數 四百字詰原稿用紙三十枚以上
 五十枚以内
内 容 現代物に限る
締 切 昭和七年十月十五日


 下段は「發 表」だけが上段と同じ大きさで「選  者」以下は明朝体と同じ大きさになっています。

發 表 昭和八年一月發行週刊朝日
 新年特別號紙上
選  者  大阪朝日新聞社「週刊朝日」編輯部
版  權  採用せしものゝ版權、上演および
 映畫撮影權は大阪朝日新聞社これを保有
送  先  大阪市北區中之島大阪朝日新聞
 週刊朝日」編輯部事實小説係
一、其外 誌上の匿名は差支なし、返送用切手貼付
 のものに限りその求めに應ず


 これにて山本禾太郎(もしくは本名の山本種太郎)で検索しても『戦前期『週刊朝日』総目次』を引いても出てこない理由が分かりました。そして後に『小笛事件』と改題される「頸の索溝」よりも前のことのように山下氏は書いているのですが、締切がまさに「頸の索溝」連載中のことになるのです。この募集記事を見る限り、これより前に似たような企画はなかったように読めますから、山下氏も材料を揃えて正確に前後の事情を把握した上で書いた訳ではなかったようです。(以下続稿)

*1:ルビ「ネオ・ルポルタージユ」。」

*2:字が小さくて読みづらいですが、画面を拡大してお読み下さい。そうすると太字にしたゴシック体と、明朝体の区別が付かなくなってしまいますけれども。