瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

山本禾太郎「第四の椅子」(13)

讀賣新聞社「本社五十五周年記念懸賞大衆文藝」(13)
 それでは選評を見て行きたいのですが、見出しに続いて掲載される、長命であった白井氏の選評は全文を抜く訳に行きませんので、冒頭の総評に当たる部分は、ざっと紹介するに止めます。
 白井氏は「殆ど旅中」の「雜念を避け」た状態で「讀了した」ので「可成り丁寧に目を通したつもりである」と断った上で、次のような感想を述べます。これは全部を抜いて置きましょう。

 總體、各篇とも、大衆文學とし/て未來を暗示する領域に達してゐ/る物は、遺憾乍ら探し出す事が出/來なかつた樣である。半ばは現在/に、半ばは過去に、七分三分乃至/五分六分の兼合を保つて、興味即/變化、變化即テンポ、といふ風に/從來大衆文藝といはるゝものゝ、/最も觀取され易い、或一部分の表/現に終始したものが多かつたやう/である。


 それから「‥‥、其採點するに當つて、先づ/第一に健全な文章、第二にいさゝ/かなりともテーマのある物を最と/するやうに手心を加へた。‥‥」との「前提」を示して「‥‥、與へられた決勝作八篇を/讀んだ順序に依つてそれ/\短評/を試みて見よう。」ということにしています。
 短評は他の選者の評と合わせて作品ごとに示すこととします。ここでは白井氏の掲載順序を、行数順位点数とともに示して置きましょう。平均点は「採点表」に倣って1点以下を切り捨てた*1

作者・作品名 行数 順位 点数
尾山篤二郎氏の「影繪双紙」 17行 3位 75点
東三條利公氏の「戀慕夜叉」 8行 5位 50点
岡戸武市氏の「不戰時代」 16行 1位 80点
勝見かく路氏の「めぐる仲仙道」 8行 5位 50点
米島清氏の「第四の椅子」 10行 5位 50点
松前治策氏の「南蠻緋玉双紙」 7行 3位 75点
長濱勉氏の「劍難時代」 6行 5位 50点
關田一喜氏の「河豚クラブ」 12行 1位 80点
  平均63点 84行 合計 510点

 順序としては次に吉川氏を引くべきですが、吉川氏の選評にも長い総評がありますので、次回に回すことにします。
 そこで次に、総評抜きの甲賀氏の選評について、順序と行数順位点数を確認して置きましょう。甲賀氏は点数順に並べていますので、同点でも先に挙がっているものを順位では上にして見ました。

「作品名」 作者 行数 順位 点数
「影繪双紙」 /尾山篤二郎君 18行 1位 80点
「河豚クラブ」 /關田一喜君 9行 2位 75点
「戀慕夜叉」 /東三條利公君 7行 3位 70点
「南蠻緋玉双紙」 松前治策君 6行 4位 70点
「不戰時代」 /岡戸武市君 6行 5位 70点
「第四の椅子」 /米島 清君 6行 6位 65点
「劍難時代」 /長濱 勉君 5行 7位 65点
「めぐる仲仙道」 /勝見かく路君 7行 8位 60点
  平均69点   64行 合計 555点


 三上氏の選評はごく簡単なものですが総評があるのでこれも次回に回します。
 寺尾氏の選評は、「 總數九百二篇中よりの豫選パス/五篇を讀了。」との前置きがあるのですが、篇数が間違っています。また、番号が打ってあって上位2点は点数順なのですが、「三」〜「六」が点数順ではありません。しかしながら番号にも何らかの意味があると見なして、同点の場合、先に挙がっているものを順位では上にして見ました。

「作品名」作者 行数 順位 点数
一、「影繪双紙」尾山篤二郎作 14行 1位 85点
二、「河豚クラブ」關田一喜作 8行 2位 80点
三、「南蠻緋玉双紙」松前治策作 4行 5位 65点
四、「不戰時代」岡戸武市作 4行 3位 70点
五、「劍難時代」長濱勉作 4行 6位 65点
六、「戀慕夜叉」東三條利公作 4行 4位 70点
七、「第四の椅子」米島清作 3行 7位 60点
八、「めぐる仲仙道」勝見かく路作 3行 8位 60点
  平均69点 44行 合計 555点


 残り2氏の行数順位は次回確認しますが、上位2氏の評価は安定しており、白井氏が關田・岡戸両氏を1位にしている以外は、5氏中4氏が尾山氏を1位にしていること、關田氏も三上氏以外の4氏が2位以上に挙げていることが注意されます。(以下続稿)

*1:2020年10月17日追記】「第四の椅子」の表にズレが生じていた(恐らくはてなブログ移行時)ので修正した。また、3つの表とも「|」を縦罫代わりに各枠の頭に入れて置いたが、これもはてなブログ移行により邪魔なだけになったので削除した。