瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

赤い半纏(1)

 2014年4月18日付「赤いマント(138)」を書いて以来、「赤いはんてん」の流布について、稲川氏の果たした役割をもう少し確認して置きたいと思って、次の本を図書館で見てはたまに借り出していたのでした。
平山夢明稲川淳二『怖い話はなぜモテる 怪談が時代を超えて愛される理由2008年6月16日第1刷・定価1300円・情報センター出版局・223頁・四六判並製本

怖い話はなぜモテる

怖い話はなぜモテる

 「情報センター出版局」のサイト『怖い話はなぜモテる』特集ページ「稲川さんと平山さん、ココだけの話」によると、本書のための「第一回対談が行われた」場所は「四ツ谷」で、「4月某日」すなわち出版直前の平成20年(2008)4月、002〜003頁(頁付なし)見開きと222〜223頁(頁付なし)見開きの写真で2人はビニール傘を差していますから、そんな天候の日だった訳です。
 005頁10行め「約十二時間に及ぶ‥‥対談」が、どの程度加工されたのか分からないが、あまり余裕のない編集作業ではあったらしく、
・024頁5行め「‥‥すっかり関心してね。‥‥」
のような誤植があります(正しくは「‥‥すっかり感心してね。‥‥」)。
 それはともかく、013〜049頁「第1章 怪談・オカルトブームの背景」の、10節に分けてあるうちの5節め、030頁3行め「|『赤い半纏特攻隊員と母親の悲話から来る*1」に、平山氏の少々不自然な振りに従って始められております。030頁6〜10行め、

平山 戦前から戦後まで、時代を超えて語り継がれる『赤い半纏』という怪談があります。
稲川 「赤いちゃんちゃんこ」って言う人もいるんだけど、それは間違い。『赤い半纏』が/正しい。地方によっては昔から語られていたようですが、全国的に広まったのは、/私が今から三十二年前にラジオでこの話をしてからですよ。
平山 稲川さんが広めたんですか!


 発言内容は2行め以降も3字下げで揃えてありますが、詰めました。段落が変わっているところも3字下げなのですが、これは最初の行のみそのままにしました。
 さて、6行めの平山氏の振りが、ここまでの話の流れと繋がっていないので、平山氏は怪談語りとしての稲川氏の原点を語らせるべく、新たな話題として振ったのだと思ったのですが、10行めの驚きを見るとそうではなさそうです。いや、優れた聞き手として良い反応をしたということなのでしょうか。
 続いて、030頁11行め〜031頁5行め、

稲川 そう。でも、当時、"詐欺師のがんちゃん”っていう有名な私のマネージャーがいて、/彼が間違えて「赤いちゃんちゃんこ」って言っちゃったから、二つの説ができちゃっ/た。
平山 詐欺師がマネージャーだったんですか(笑)。
稲川 そうなんですよ。人を騙すひどいやつなんです。芸能界でも有名だったんですよ。/まぁ、その話はいいんだけど、『赤い半纏』っていうのは、当時、私が『オールナ/イトニッポン』の二部のパーソナリティをやっているときに、たぶんご年配の女性/だと思うんですけど、手紙がきたんですよ。その人が自分の体験を書いてきたんで/すね。
平山 なるほど。


 この「三十二年前」の「オールナイトニッポン」については、2014年1月4日付「赤いマント(74)」に、何の断りもなく「例の稲川淳二(1947.8.21生)のラジオ放送」として確認して置きました。その際引いた、稲川氏の放送を知らなかったらしい中村希明『怪談の心理学』8頁の記述はこの話のルーツを考える際に大変参考になります。注意すべきは中村氏が「赤いチャンチャンコ」は昭和47年(1972)48年(1973)頃の流行で、昭和52年(1977)53年(1978)流行の「赤いはんてん」も「まったく同一ストーリー」と書いていることですが、よく読めば「まったく同一」なのは学校の便所で「赤い××要るか?」のような声を掛けられ「要る」と答えると(或いは、いくつかの色の××の中から選択を迫られ、「赤」と答えると)血まみれになって死ぬ、と云う根幹のみで、半纏ではなく斑点だったという「ギャル好みの語呂合わせのオチ」はこの「赤い半纏」に至って初めて追加された要素だと判ります*2
 それはともかく「がんちゃん」がどこで「ちゃんちゃんこ」と喋ったのか分かりませんが、ラジオ放送の稲川氏ほどの影響力は持ち得なかったはずで、これは明らかに買い被りでしょう。むしろ、中村氏が注意しているように、直前に「赤いチャンチャンコ」が流行しており「がんちゃん」もそれを聞いたことがあって、「半纏」でないと斑点との語呂合せにならないのをうっかり忘れて旧来の「ちゃんちゃんこ」で話してしまった、と解した方が良さそうです。
 さらに続きを見ましょう。031頁6〜16行め、

稲川 内容はこういったものでした。この方が、自分が女学校にいたとき、寄宿舎からち/ょっと離れて立っているトイレに入っていたら、どこからか「赤い半纏着せましょ/か」って声がしたそうなんですよ。最初はかなり遠くで聞こえたのに、だんだん近/づいてくる。人間そんな早く移動できるわけないじゃないですか。なんだろうと不/思議に思っていると、自分が入ってる個室の窓の外から「赤い半纏着せましょか」っ/て聞こえてきた。ウワーッとなったけど、用を足しているからすぐ逃げられないじゃ/ないですか。「どうしよう」と思ってたら、ついに自分のいる個室の後ろの壁から、/「赤い半纏着せましょか」って聞こえた。
   慌てて逃げたら、別の女の子も同じ話をしたそうなんです。それで学校に報告した/ら、警察が来た。ところがどうも警察の対応がおかしかったって言うんですよ。
平山 どういうことですか。


 手紙の原文が見たいところです。類話では、実際に声を聞いた本人から話を聞いた、という人はいないのですが、ここは当事者が書いた手紙ということで、類話にはないディテールや解釈が述べられています。
 続き、032頁1〜12行め、

稲川 普通だったら変質者を疑って、すぐに近所に聞き込みするじゃないですか。でも、/しない。
   それからしばらくして婦人警官が来て、「これから一人で個室に入って、犯人を捕/まえる」と言う。婦人警官がトイレに入ってしばらくして、もう何も出て来ないん/じゃないかと思っていたそのとき、「はい、着せてくれ!」という婦人警官の叫び/声がしたと思ったら、ブッと音がして、「ウワァァァッ」という凄まじい声がした/そうです。
   警官が慌てて飛んで行ったら、個室の扉から血が流れてる。ドアを開けたら、婦人/警官の首の後ろにくさび形の木が刺さってて、鮮血が吹き出してて、着ていた服を/みるみる赤く染めて、それがまるで赤い半纏のようだった、という話。
   その婦人警官は、たぶん、「赤い半纏着せましょか」という声が聞こえたとき、「着/せてくれ」と言ったんでしょうね。


 ここまでがオリジナル(?)の「赤い半纏」です。(以下続稿)

*1:節の題は4行取りで、中央やや上にゴシック体で3行、上に横線がある。

*2:2016年8月16日追記】この「語呂合わせのオチ」については1月21日付(07)に検討を加えた。