瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

赤い半纏(2)

 昨日の続きで、032頁13行めから引いてみましょう。

平山 怖いですね。それをラジオで放送したんですか。
稲川 しました。普通に話すのもいいんだけど、私、つくったんですよ。フシを。「赤〜/い〜は〜ん〜て〜ん〜着〜せ〜ましょか」って。
   それから、二十年後くらいに、どこかの大学教授がテレビでこの話を紹介してて、「赤/〜い〜は〜ん〜て〜ん〜着〜せ〜ましょかというのは、誰が語り始めたかわからな/い古典怪談の一つです」なんて解説してた。そうじゃない。私がつくったんだって。
平山 (笑)。


 性格の悪い(!)私としてはここが一番注目したいところです(笑)*1
 この、学校の(女子)便所で「赤いはんてん着せましょか」と云う呼び掛けがあって、婦人警官が殺害されるというオチになる話は、2014年4月18日付「赤いマント(138)」に見たように、松谷みよ子『現代民話考[第二期]II 学校〈笑いと怪談/子供たちの銃後・学童疎開・学徒動員〉』(1987年6月9日第1刷発行・立風書房・定価2,000円・407頁)の「第一章 怪談」及びちくま文庫『現代民話考[7] 学校・笑いと怪談・学童疎開』(二〇〇三年十月八日第一刷発行・筑摩書房・定価1400円・475頁)の「第一章 笑いと怪談/怪談」に載っているのですが、その原型である松谷みよ子現代民話考  その五学校の怪談」(「民話の手帖」第5号36〜78頁、一九八〇年四月十日発行・定価八八〇円・民話の研究会・176頁)にも、この話は出ています。
 この3者の関係については以前、かなり細かく調べたことがあるのですが、例によって調査メモが出て来ないので咄嗟に何ともしようがないのですが、当時「民話の手帖」は春と秋の年2回刊行でしたから、もとになったアンケートの呼び掛けは昭和54年(1979)になされているはずです(それも実は、確認したはずなのですが)。
 この、松谷みよ子『現代民話考』は、学校の怪談を考える際に重要な資料でありながら、いろいろと問題があって使いづらいのです。例えば、初出誌の「学校の怪談」からあったのか、単行本で追加されたのか、文庫版で追加されたのか、区別が付かないことです。初出誌から文庫版まで23年の開きがあるのですから、そこが明瞭になるだけでも遥かに扱い易くなるのですが、現状ではうっかりすると文庫版で加わった話を間違って昭和62年(1987)の話として扱いかねない。あるものは昭和55年(1980)に遡るのにそこを曖昧にしたまま引用せざるを得ない。
 学校の怪談を考える上で『現代民話考』を無視出来ない以上、とにかく、ここをはっきりさせないことには、先に進めません。ここまで縷々述べて来たように、話の行われた時期と記録された時点とを、私はゆるがせに出来ないと思うのです。以前のメモはもう諦めて、改めてやり直そうかと思い始めています。
 それはともかくとして、ここで『現代民話考』に注意したいのは、初出誌に載る「赤いはんてん着せましょか」の話が「話者・共立女子大生」とされていることです。まさに2014年1月4日付「赤いマント(74)」に引いた、中村希明『怪談の心理学――学校に生まれる怖い話講談社現代新書1223)』(一九九四年一〇月二〇日第一刷発行・定価631円・219頁)が「昭和五十二、三年頃になると、‥‥「赤いはんてん」の怪談がなんと女子大生のあいだで大流行」したとするその流行期に、友人を介して当の女子大生の話が松谷氏に伝えられた訳なのです。
 問題は稲川氏が創作したというフシです。松谷氏は「笑いと怪談考」では「友人から聞いた」としていますが、本文では「斎藤とき/文」となっていて、直接聞いたのではないような按配になっています。松谷氏はこのフシを聞く機会があったでしょうか。しかし『現代民話考』は文字ですから、読んでもフシは分かりません。稲川氏が「二十年後くらいに」聞いた「どこかの大学教授」は、稲川氏のフシで語っていたというのですから、稲川氏の放送は聞いていなかったでしょうが、とにかく稲川氏の放送が20年後にそのまま「伝承」されていたことになる訳で、なかなか感動的(?)な展開です。昭和51年(1976)或いは昭和52年(1977)の稲川氏のラジオ放送の録音、残っていないものでしょうか*2。そして、20年後として平成8年(1996)か平成9年(1997)、聞き比べてみたいものです。――可能性が皆無でないだけに、そんなことも考えてしまうのです。
 しかし今となっては、稲川氏の今世紀になってからの語りがいつでも聴ける状態になっていますから、聞き比べるも何も「つべで稲川怪談見たんだべ?」ということでお終いなってしまいましょう。(以下続稿)

*1:1月17日追記】最後に「性格の悪いところを見せたついでに先刻見たTV番組について突っ込みを入れて置く」と、別のことを書き添えて置くつもりだったが、長くなったので果たせなかった。今更追加はしない。

*2:複数の音源が複数の動画サイトにありますが、ラジオ放送のものはないようです。