瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

赤い半纏(4)

 昨日の続き。
 前回1月17日付(3)に引いたブックレット2頁めのコメントに「長い時間が経ってからその続きや真相が見えてくる事があるんですよね…。」とあるのは、この「赤い半纏〈完全版〉」には従来の「赤いはんてん」にはなかった「続きや真相」が追加されているからで、それで〈完全版〉を謳っているのですが、これについてはまた『怖い話はなぜモテる』の対談に戻りましょう。1月16日付(2)には033頁3行めまでを引きましたが、続く033頁4〜15行めを見てみます。

稲川 この話、後日談がありましてね。どうも当時の警察官はそこの建物にかつて何かあっ/たことを知ってたんじゃないかという話なんです。だから、婦人警官を連れてくる/なんて妙なことをしたんですよ。で、その謎が去年わかったんですよ。どうやら"特/攻”が関係してるんですよ。
平山 戦時中の特攻隊ですか。
稲川 当時、特攻隊は戦いに行く前に、公民館や分教場に集められたんですね。で、その/女学校というのも、もともとは分教場だったそうで、戦時中には壁にびっしり書い/てあったそうですよ。兵隊の名前と言葉がね。
   要するに、これから死にに行く人間が位牌も何もないわけでしょ。壁に書いた名前/は、自分で書いた自分の位牌なんですね。若者たちが爆弾を積んで、片道だけの燃/料だけ持って死にに行く。怖くないわけがないじゃないですか。
平山 まだ十代の若者もいたそうですからね。


 続きに因縁が語られているのですが、それは次回紹介することにしますが、既にかなり破綻しています。警察は因縁を薄々知っていた、「だから、婦人警官を連れてくるなんて妙なことをした」と云うのですが、正直、続きを読んでも「婦人警官を連れて」来ないといけない理由の説明にはなっていないのです。それから「変質者を疑って、すぐに近所に聞き込み」をするはずなのに「婦人警官」が問題の「トイレ」に入ったことを稲川氏は問題にするのですが、別にそんなに「対応がおかし」いとも思えません。松谷みよ子が『現代民話考』に載せた話は共立女子大が舞台ということになっているのですが、問題のトイレにまず「男の警官」が入ったものの何事もなく、次に「婦警さん」が入ったら声がした、ということになっています。しかし、稲川氏の話は「女学校」、『現代民話考』は「女子大」なのですから、そのトイレ、すなわち教職員であっても男子禁制の場所たる女子便所の確認を婦人警官が担当することになったというのは、筋が通っています。理屈として何等怪しむべきところはありません。当然、トイレの外、入口側と窓側とに男の警官が複数配置されて見張っていたことでしょうし。
 破綻している箇所への突っ込みは今回はこれくらいにして、ここでこの話の時期を確認して置きましょう。――この話での「婦人警官」の役割は、別に「女の先生」がやっても良いはずですが、ここに「婦人警官」が登場してくることによって、この話の時期の上限ははっきりしています。すなわち、婦人警察官は戦後、GHQの指示により昭和21年(1946)に募集・採用・勤務が始まりました。
 下限ですが、「女学校」すなわち高等女学校は戦後の学制改革により昭和22年度までで廃止され、昭和23年度からは新制高等学校になりました。
 そうすると、昭和21年(1946)か昭和22年(1947)、『怖い話はなぜモテる』には採られていませんが、録音では夜の女子便所で窓から星空を眺めていたという描写を以て、稲川氏は南国と推定するのです(まぁ差出人の住所から分かりそうなものです)が、そうだとしても寒い時期の話ではないでしょう。
 尤も、高等女学校の多くは女子高等学校になりましたから、しばらくは、特に急な切り替えの利かない大人たちの間では「女学校」という呼称も残存していたかも知れません。或いは、昭和21年度に最後の高等女学校の入学生となった学年*1が新制高等学校を卒業する昭和27年(1952)3月までは、生徒たちにも自分が入学したのは「女学校」である、という意識があったかも知れません。
 しかし、そこまで幅を持たせるにしても、稲川氏の話の設定では、ごく限られた数年のことと考えられる訳です。ラジオ番組に寄せられた手紙には、この戦後の数年の間に、現役の学生であった手紙の差出人が、実際に体験したこととして「赤い半纏」の話が述べてあったと云うのです。もちろん、手紙にあったのは1月16日付(2)に引いたところまでで、稲川氏がここで語っている「続き」及び「真相」は、その後の稲川氏の調査(或いは誰かの稲川氏への報告)により初めて判明し「去年」つまり、1月17日付(3)に紹介した『MYSTERY NIGHT TOUR 稲川淳二の怪談 Selection 13』に収録された、「MYSTERY NIGHT TOUR 2007 稲川淳二の怪談ナイト」で初めて披露したのが「赤い半纏〈完全版〉」であった訳です。

 昨日貼り忘れていたライヴ盤DVDを貼って置きます。(以下続稿)

*1:昭和22年度からは義務教育の新制中学校。