・「週刊朝日」デキゴトロジー(2)
昨日の続き。
『デキゴトロジー』の信憑性については、巻頭、『vol.7』『vol.8』共通で3〜5頁「デキゴトロジー宣言」に謳われております。恐らく他の単行本・文庫版も同様に巻頭にこの宣言があるのでしょう。
最後の方を引いて置きましょう。5頁7行めから。
ここに採用された出来事は、もし『デキゴトロジー』がなかったら、当事者とその周辺の/ごくわずかの人々に知られただけで、歴史のなかに埋もれてしまったに違いない。もし、こ/のコラムが存在しなかったら、後世の人はわれわれの時代をおおいに誤解するだろう。二十/世紀の日本には、ゴマスリ、ポンビキの類はあんまりおらず、正義一本槍*1、やたらに悲憤慷/慨*2する士ばっかりいたというふうに。そういうふうになると、まことにこそばゆい。
『デキゴトロジー』は、現代人の実態を後々の人にちゃんと伝える重大な使命を帯びている。/いわば、千年後の人々に向けた『今昔物語』である。
この本にあるのは全部本当の話で、実際に具体的に起こったことがらである。ときに、/「嘘*3じゃないか」という指摘を受けたが、それをむしろ光栄と思う。虚構であるか、現実の/出来事であるかは、その話が持つリアリティーが、おのずから語るところであろうから。
ここの『今昔物語』は、もちろん『今昔物語集』本朝世俗部を指しています。
今はネットがありますから、どうでも良い瑣事から秘すべきことどもまでもが氾濫せんばかりになっておりますが、昭和末年には限られたメディアに載せるしか、異事奇聞を世間に伝える方法がありませんでした。例えば私は昭和61年(1986)夏、中学3年生の夏休みの宿題として怪異談集を編纂したのですけれども、原稿用紙に書いたものをクラスの中で回し読みされる程度にしか、広めようがなかったのです。出版社や報道機関に送り付けたところで採用になるか分かりません。コピーも安くはありませんでした。
それはともかく、投書募集している欄でもないのにどうやって聞き集めたのか、その点は追って調査することにして、まず「週刊朝日」10月23日号の「デキゴトロジー」のラインナップを眺めて置きましょう。
誌面は5段組、1段32行、1行15字で、39頁の1段めはタイトルロゴで「デキゴトロジー」とあって、その下にテーマに因んだイラストのマークが20箇並びます。1つの出来事につき、2段抜き6行取りの見出しがあって、ゴシック体3行で1行めと3行めは灰色地の枠に白抜き、2行めは白地の枠に黒のゴシック体、上部は不定形で波のような勾玉のようなオッパイのような形に●(黒丸)を打ってあり、下部はやや横が長い長方形に、タイトルロゴの下に並んでいたマークのうち1つが入り、文字も附されております。
まず1つめ、39頁2〜3段めに「トイレの中でくしけずる|ひみつのアッコちゃんは|女子高生? それとも…」とあり、マークはハート型に男性の横顔で下に横長のゴシック体横組みで「男心」とあります。文章は2段め26行、3段め13行、4段めは右側に13行分イラストがあって、下にゴシック体横組みで「え・大川 清介」とあります。このイラストについては後述します*4。続いて文章が6行。なお文庫版には「男心」という分類がないので、前回見たように「道 楽」の部に収録しております。
2つめは39頁3〜4段め「難事件をより迷宮化した|フシギな「玉」の持ち主は|ムショ帰りのヤーさんか」マークは盆栽のイラストで「道楽」、文章は3段めと4段めが7行ずつと5段め。この出来事は文庫版に再録されていません。かいつまんで内容を紹介すると「北九州市若松区の造成中のニュータウンで、八月初め」に発見された「殺人事件」被害者の「若い男らし」い「白骨死体」の「腰骨のあったあたりから」出てきた「四つ」の「パチンコ玉より一回り小さい、白い玉」が、鑑識の結果「どうやらプラスチック製歯ブラシの柄を丸くしたものと判明し」ます。「刑務所に入っている時」によく、出所後「女性を喜ばせるために、大事な部分に埋め込」むという「暴力団員ではないか、と見当がついた」ものの、この手がかりでは大っぴらに情報提供を呼び掛ける訳にも行かず「解決への道は遠いようだ」と纏めています。――大久保清が埋めていた、と大昔に物の本で読んだ記憶があります*5。しかしこれが「道楽」とは。文庫版を見るに「極 道」や「SEX」という分類もあるのですけれども。
40頁は5段めが丸ゴシック体「亭主の好きなナガサキヤ(154)」という連載広告で、株式会社建築計画事務所和敬社長夫人の顔写真とコメントが出ています。「ミミネーグル」という商品の広告で、右下に「パレフリアン/ナガサキヤ」のロゴ、◆を数珠繋ぎにした飾り枠の下辺右を切って「京都・河原町四条 TEL(075)221-6661―2」とあります。Wikipediaによると大正13年(1924)創業、バブル期が全盛で、バブル崩壊とともに業績が悪化、平成12年(2000)に倒産しています。今現在、東京にパレフリアンという洋菓子製造会社があるようですが平成13年(2001)設立でナガサキヤとは関係がないようです。――私は食玩に夢中になるようなこともなく、カステーラや洋菓子を食べるような家に育たなかったので記憶にありません。それはともかく。
3つめは40頁1〜2段め「パンチパーマも逃げ出す|神戸から来た"好々爺"の|背中一面彫り込んだ刺青」マークは禿頭に額に3本線(皺)白い口髭・顎鬚の老人で「老後」。文は1段めの残り、2段めのイラスト(13行分)を挟んで右6行、左7行、3段めと4段めに7行ずつ。②文庫版225〜234頁「極 道 仁義と信義は相容れぬようでござんす」6つのうち2つめ、226頁14行め〜228頁8行め「療養中好々爺にタトゥーあり*6」と題して再録されています。ほぼ同文*7で振仮名は①では「刺青」に「いれずみ」とあるのみだったのが②文庫版ではいくつか追加されています。日は「九月下旬の土曜日」すなわち26日。
4つめは40頁3〜4段め「入社試験のレントゲンで|「女の園」育ちを暴露した|女子大生の"脱ぎっぷり"」マークはハートに女性の横顔の「女心」。本文は3段め4段めに19行ずつ、41頁4段め5段めに4行ずつ。②文庫版では143〜155頁「女 心 女心と天気予報」ではなく、80〜89頁「学 問 青い山脈いまいずこ」7つのうち4つめ、84頁11行め〜86頁1行め「女の園で学んだ脱ぎっぷり」で、ルビをいくつか補い、鍵括弧の前後の改行を増やしていますが本文は同じ。時期は「九月半ば」。
5つめは41頁4〜5段め「「刃物で字を書くの?」と|のたまう教師は「女広岡」|血を見ても臆せず動ぜず」マークは開いた本を背表紙側から描いたもので「学問」。②文庫版でも「学 問」の6つめ、87頁14行め〜88頁(18行め)「「女広岡」先生、血染めの授業」は、ほぼ同文*8で振仮名が2つ補われています。時期は「九月下旬の午後」。
別に41頁1〜3段めを枠で囲って「ペットに捧げる愛の深さ|動物の霊廟「椿寺」異聞⑧|小田急に乗る"命の恩人"」マークは犬の横顔に「動物」。連載物は文庫版では「[PART2 特選コーナー]」に纏められているのですが、これは収録されていないようです。
それでは、①週刊誌掲載のものと②新潮文庫『デキゴトロジー vol.8』掲載のものを比較して見ましょう。