瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

八王子城(12)

 前回、3月18日付(11)までで、椚國男の著書のうち2冊に取り上げられた八王子城跡の怪異について、紹介を終えた。他の著述はまだ確認していない。――前回見たように椚氏本人は何も見ていないのだけれども、卒業生や警備員、ボーイスカウトや和太鼓のグループの体験談が、直接ではないにしても多くの口を経ない、生に近い形で紹介されていた。
 現在、八王子城跡の怪異というとネット上にも*1体験談などが散見される。本に載っていれば信憑性が保証されるのかと云うと、そんなことはないと思うが、虚偽でないかどうかも分からない*2。それに、自由に閲覧出来る訳だ(到達するまでが手間かも知れないが)し、刊行物という枠を外してしまうと際限がなくなるので、しばらく検討の範囲に含めないで置くことにする。
 そこで、まず刊行物に出ている例として、次の本の記述を検討して見る。
・『東京都の不思議事典』
 単行本『東京都の不思議事典』と新人物文庫版『東京都謎解き散歩』の関係については、昨日まで「文学編」を例に検討して見た。より詳細な比較もしないといけないのだが、草臥れて来たので本題(?)に入る。
 八王子城跡については、単行本上巻56〜107頁「歴史編」に、75頁上段3行め〜76頁上段2行め「19 八王子城落城悲話!」と題して立項されており、文庫版では『武蔵野・多摩・島しょ編』81〜124頁「第2章 歴史編」の9項めに、104〜106頁「八王子城落城悲話!」として出ている。執筆者は(土屋 伸也)で、単行本巻末の「執筆者略歴」の〔歴史編〕の6人め、文庫版巻末の「執筆者一覧(五十音順)」の23人めに出ている。読みは(つちや・のぶや)で昭和38年(1963)生、単行本では「都立墨田川高校教諭」で文庫版では「東京都立三田高校教諭」である。本書の執筆者は高校教諭が多い。
 それはともかく、最初の段落を引いて置こう。同文で異同はルビのみ、単行本75頁上段4〜10行め(改行位置「/」)、文庫版104頁2〜6行め(改行位置「|」)。

 JR中央線高尾駅より北西約三キロメートルほど、城山/とよばれる急峻な山|一帯に八王子城跡がある。山麓の東京/造形大学周辺では八王子城落城にまつわっ|て、今でも「滝/の水が真っ赤に染まった」「十二単の女性や鎧武者や白装/束の|幽霊が出た」などなど、奇々怪々な話が後を絶たない/という。その背後には、ど|んな史実が隠されているのであ/ろうか。*3


 怪異現象が導入に使用されている訳だが、「滝の水」については3月14日付(08)*4、3種の「幽霊」については3月10日付(04)で確認したように『戦国の終わりを告げた城』に見えていたが、ともに「東京造形大学周辺では」とするより、滝に女性たちが身を投げたという伝承を紹介しつつ「御主殿の滝周辺では」とするべきであった。*5『戦国の終わりを告げた城』が「造形大の怪談」としていたのを踏襲したのであろうが、単行本が刊行された時点で既に、3月5日付(01)にも述べたように東京造形大学は完全移転していたのだから「東京造形大学周辺では」と断るべきではなかった。
 この点からしても、また以下の記述を読んでも、どうもこの項は『戦国の終わりを告げた城』に拠っているらしく思われるのだが、単行本巻末の「もっと東京都のことを知りたい人のために」を見ても『戦国の終わりを告げた城』は出ていない(文庫版は参考文献を挙げていない)。これは「もっと東京都のことを知りたい人のために」に挙がっている本が殆ど10年以内に刊行された新しいものばかりであるところから察するに、やはり3月5日付(01)で触れたように、版元の六興出版が倒産して、書店で入手出来なくなっていたためかと思われるのである。(以下続稿)

*1:3月25日追記】投稿当初「‥‥の怪異というと、いろいろな本に出ているし、ネット上に」としていたが修正した。

*2:典拠を示さずにまるまるCopy and Pasteしただけのページもあって、何がオリジナルかを判定し、そこまで遡るのが、面倒である。

*3:単行本ルビ「きゆうしゆん・じゆうにひとえ・より・しろしよう/ぞく」。文庫版ルビ「たかお・しろやま・きゅうしゅん/さんろく/じゅうにひとえ・よろい・しろしょうぞく//」。

*4:4月15日追記「3月16日付(10)」と誤っていたのを訂正した。

*5:3月25日追記】投稿当初「‥‥』に見えていた。「東京造形大学周辺では」とあるのも」としていたが、修正した。