瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

八王子城(14)

・だーくプロ 編著『多摩の怪談ぞくぞくガイド』(2)
 それでは4月15日付(13)の続きで、10〜11頁「警備員が見た足のある幽霊」について検討して見よう。
 冒頭部、10頁上段2〜5行め、初版は

 実際、不思議としか言いようのないできごとが次々に起きている。
 八王子城は標高四七〇mほどの深草にある。‥‥

となっているが、この「深草(振仮名「ふかくさやま」)」は改訂版では「深沢山(振仮名「ふかさわやま」)」と訂正されている。
 10頁上段9行め〜11頁上段7行め、

 この山のふもとに、一九九三年に移転するまで、東京造形大学があった。そこの警備員が夜中にしばしば武者の幽霊を見たという。*1
「手には竹やりを持ち、竹でできた胴丸(簡単なよろい)を着け、ももひきにはひざにつぎがあたり、足下までしっかり見えた」*2
 細かなところまではっきりと描き出すこの証言は、八王子城の歴史を研究してきた人たちを驚かせた。


 前回も触れたように、この警備員の目撃談は3月13日付(07)に引いた『戦国の終わりを告げた城』の「造形大の怪談」に拠っているが、その内容が「八王子城の歴史を研究してきた人たちを驚かせた」と云うのが独自な部分である。
 『戦国の終わりを告げた城』には、こんな記述はない。では、編著者が勝手に付け足したのであろうか。
 ところで、編著者の「だーくプロ」の素性は分からない。しかし、他に手掛けた本もないようだから、このような編集プロダクションが存在する訳ではなくて、恐らく取材編集に当たったのは版元の編集員たちで、この本のためにそれらしい団体名を称してみたのであろう。取材はしっかりやっている印象で、この「八王子城」も『戦国の終わりを告げた城』の書名は登場しないが、後述するように著者の椚國男が登場する。すなわち、この「研究してきた人たち」とは、椚氏を中心とする「人たち」と思われるのである。――流石に、一般向けではありながら飽くまでも学術書として執筆した『戦国の終わりを告げた城』に、この警備員の目撃情報が専門家を「驚かせ」るような、信憑性(?)の高いものであったとは書けなかったので、分かる人には分かるように書き、そしてこの多摩地方の怪談を専門に扱った、地元出版社(立川市)の本に、学問的とは云えない“解釈”を盛り込ませた、ということになりそうだ。(以下続稿)

*1:ルビ「むしゃ」。

*2:ルビ「どうまる」。